102 / 208

食レポ(咲紀→相馬→咲紀視点)

映画の途中、おにぃの後を追う様に席を立ったのは、やっぱり相馬様だったのか。 おにぃの様子が少し柔らかくなっていた事に咲紀は、翼に築かれない様にホッと一息ついた。 「咲紀、どうかしたか?」 「ううん。おにぃ、なにか食べて帰ろうか?」 そういって、二人はフードコートで軽く食事をして、差し入れ用に買い物のをして帰ったのだった。 「差し入れ何作るの?」 「んー、ゼリーとか? こないだ、ブラウニー作ったけどやっぱ時期的に・・・・」 「え!! おにぃ、ブラウニー作ったの!? 私食べてない!!!ずるい!!」 ズルいと連呼する咲紀に根負けして、その日の夜 急遽咲紀の為に、チョコブラウニーを作る事になった。 それと一緒に、涼し気なゼリーも作った。 陽の落ちた後だというのに、少し動けば肌はすぐ汗ばむ。 弓道場で練習をしていると、携帯にメールが届いた。 画面に一瞬でた、送信元の表示に思わず口元が緩む。 あの映画館で翼に会えたのは良かった。 もしかしたら・・・と何処か期待はしていたが、会えた所で翼自身が許してくれなかったらと少し怖かった。 あの時、自分がしたように彼が視線を逸らさないでくれた事が嬉しかった。 元々、自分に向けられる視線には興味が無かった。 皆、自分の後ろに何かを見て居たから。青桐相馬でなく、青桐家次期後継者候補の青桐家次男。それが自分。 それでも、幼い頃はまだ良かった。まだ、兄と姉が居たから。 それが父が、自分達には自由結婚をさせてあげて欲しいと祖父に直談判した事をきっかけに、自分に対する周りからの視線はガラリと変わった。 それまで、自分の事など範疇外だと言っていた様な兄姉の取り巻き。同年代の子を持つ親達・・・ そんな頃にハルとは出会った。商品として見られていたハル。 そんなハルと似た様な境遇だったせいか、ウマが合った。 その頃ハルとは、パーティーで顔を合わせるくらいだったが、メディアを通して常に近くにハルは居た。その所為か、自分の中では昔から知って居る気になっていた。 同じ学園に中等部から通う事になってからは、お互い家族と過ごす時間より長く一緒に居た。 だから、ハルにも自分がいつでもどこに居てもわかる様に目印を付けた。 最初、それに気が付いたハルには口を聴いて貰えなかったが、今は容認して貰っている。 自分の性質に気が付いたのは、莉緒のあの姿を見た時だった まるで、自分の所有物(モノ)かのようにつけられた印 それを見て、羨ましいと思ってしまった。 そこまでの執着を持てる相手と巡り会えた事に・・・ 自分の事を好きだと言っていた莉緒への怒りと哀れみ 自分を好きだと言いながらも、他人(ヒト)に良い様にされた事 自分の事等好きにならなければ、こんな事には成らなかったかも知れない事への怒りと哀れみ。 莉緒の気持ちを知りながら、利用していたのに、それを良い様に使われた事が許せなかった。 どこか自分の立場に甘えていたのかも知れない。 青桐家へ歯向かう人間がいる事、自分では無い人間を標的にする事 その考えに至らなかった自分の未熟さ そして、莉緒を弱点と思われた事・・・ バスッツ 「ッチ・・・。」 的から逸れた矢を見つめる目には、静かに炎が灯っていた・・・ その熱を納めるべく、相馬は弓道場を後にした。 「ん~、おいしぃ~! レモンの酸味が爽やかで口の中がすっきりするし、仄かな甘みは、はちみつ? ホント、おにぃの作るのは美味しい」 「あはは、咲紀。なんかレポーターみたいだな。」 咲紀の目の前には、薄切りのレモンの乗ったゼリーと、茶色いゼリーがあった。 「こっちのは・・・ん~!! 紅茶?香りも良いけど甘さがちょうどいい!!」 「そっか、それなら良かった。」 そう言って、咲紀の目の前にチョコブラウニーとアイスティーを置いて、翼もダイニングテーブルに着いた。 「明日だっけ??」 「そう、明日の午後かな・・・ん~、やっぱ、おにぃのブラウニー美味し。」 「なら、駅で待ちあわせようか?」 「うん! 明日は、朝日奈さんと黄瀬さんの試合だっけ??」 「そー、朝からいないけど・・・」 「大丈夫だよ~。私も昼前には家出るし。」 そう言って咲紀は、目の前のゼリーとブラウニーを食べながら翼の事を眺めていた。 翼は、ダイニングテーブルの上に置いてある、携帯がメールの着信を知らせるたびに、嬉しそうな顔をしてる。 おにぃが元気になって良かった。 明日は、頑張ってね。 私は、見守ってるからね。

ともだちにシェアしよう!