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オタは語りたい(翼→朝比奈視点)

「翼君おはよ! 凄い荷物だね・・・少し持つよ。」 見覚えのある車から、まるでCMの様に爽やかな空気をまとった朝比奈が降りて来た。 翼は、両手には二つのクーラーボックスとカメラバックを抱えてマンションの前に居た。 「あ、サンキュ。 そしたらこれ、頼んで良いか??」 そう言って、クーラーボックスを一つす。 残りの一つは、迎えに来た運転手さんに手渡した。 「田中さん、今日はありがとうございます。これ、相馬に渡して貰えますか?」 「ええ、畏まりました。」 昨日、相馬からせめてものお詫びという事で、駅までの送迎をして貰える事になったのだった。 正直、この荷物で暑い中駅まで行くのは大変だったので、有難くお言葉に甘える事にしたのだけど・・・ 「相馬と仲直り出来たみたいだね。」 「・・・気が付いてたのか?!」 「まぁ・・・。」 すこし驚いた様子の翼から視線を逸らすとミラー越しに、朝日奈と運転手の田中と目が合った。 田中に、にっこりと微笑まれたのはきっとそう言う事なんだろう。 「ところで・・・、翼君。黒井先生の事その・・・・なんで『様』呼びしてたの・・・?」 そう聞かれて、翼の顔はみるみる赤くなっていった。 その変化に、今度は朝比奈の顔色が悪くなっていった・・・ 「ま・・・まさか・・・翼君・・・黒井の事・・ス・・・」 「う、うわぁ・・・恥ずぃ・・・。家では『様』呼びだったからつい・・・、ん?」 翼と朝比奈は思わずお互いに首を傾げた。 先に、聞き返したのは朝比奈だった。 「家ではそう呼んでるの?」 「え、ああ。 オレがってよりは主に、身内がなんだけど・・・すんごい、しお・・・黒井先生の事を推してて・・・って、あ!推しってのは、ファンってのと似てる感じかな??・・・それで、その しお・・・黒井先生の事、なんかオレも身近につい感じちゃって・・・。って、あ・・・ハル・・・・」 し、しまった・・・・ 一気に語りだした翼に思わず、朝日奈は何を言ってるのか解らないって顔に思わずなってしまった。 その顔を見て、翼は転生前の黒歴史を思い出してしまった。 中学時代に、ハマったアニメを思わず一回くらいしか見た事の無いクラスメイトにオタトークをしてしまった時と同じ顔 その顔を見て、一気に気持ちが落ちてしまう。 (ど、どうしよう・・・。ハルに退かれたかな・・・。) 思わず、朝日奈から目を逸らしてしまう。 けど、翼が思っていた様な言葉はハルから出なかった。 「・・・って事は、翼君は黒井先生の事どう思ってるの? 好きって事じゃないの??」 その問いに、視線を戻した 別に、茶化すでも冷やかすでも無いその顔にすこし安心して聞かれて事について翼は少し考えた 「どうって・・・しお・・黒井先生は・・」 「あー、いつもの様に話してくれていいよ。」 そう言うと、パァァっと翼の顔が明るく成った 「マジ? 実は言い慣れなくて・・・。 紫苑様はやっぱ、あのエロボとあの顔だよな。眼鏡と髪型で隠してるけど、近くで見るとあの紫の瞳と良い、背もスラっと高くて白衣も似合ってるし・・・。それになんと言っても、シンメの存在がやっぱ尊い!!! ・・・って、ハル??」 「・・・で、翼君は紫苑様の事好きなの?」 「へ? 好きだけど・・・オレの一推しは紫苑様じゃなくて、そう・・・」 言いかけて、気が付いたのか・・・、さっきとは比べ物にならない位、翼の顔は赤くなっていった。 「・・・・そう・・・?」 の後に、続く音なんて・・・、僕が思いつくものは一つしかなかった。 「な、なんでもない!! 紫苑様はシンメ的存在が居るから、ニコイチでオレは推してるけど・・・オレってよりは・・・ホント、身内の一推しって感じで・・・。」 一生懸命言い訳というか・・・釈明をしようとするその姿に 思わず、顔がにやけてしまう。 ミラー越しにこちらを見ている顔もなんだか生暖かい。 そんな生暖かい視線で見守っていた田中が、声を掛けて来た。 「朝比奈様、佐々木様、そろそろ駅に着きますが・・・、このまま黄瀬様の試合会場までお送り致しましょうか?」 「え・・・でも、相馬の所に行かなくていいんですか?」 田中の言葉に純粋に心配する翼 その隣で窓の外を朝比奈は眺めていた・・・ 翼君・・・ 実はこの車。最初から駅には向かってなかったからね!! ホント、僕は君が心配だよ。 君の返答次第で、黒井先生と新学期会う事出来なかったかも知れないんだからね・・・。 はぁ・・・ 思わず、安堵の溜息が漏れる。 「相馬様からはお二人のお力になる様にと言われてますので・・・」 ミラー越しにそう言いつつ、朝日奈の方へ伺いを立てる様に田中は視線を寄越した ・・・。 「それなら、翼君、お言葉に甘えようか? 田中さんお願い致します。」 にっこり ミラー越しに微笑み返す 「畏まりました。 佐々木様も朝比奈様も着きましたらお声かけ致しますので、どうぞお寛ぎ下さいませ・・・。」 それから少ししたら、隣から静かな寝息が聞こえて来た。 車内の冷房と振動で、朝早かった翼は眠ってしまっていた。 「朝比奈様、ブランケットがそちらに有りますので・・・」 そう田中が声を掛けて来た。 ・・・なるほど、ここまで想定内という事か・・・。 翼に、ブランケットを掛け自分もそのまま目的地まで目を閉じた・・・ 気が付くと、朝日奈もそのまま眠っていた。

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