108 / 208
ウー
スタジアムを出る時に、先に連絡を入れて置いたおかげで、待ち合わせの駅改札ですぐ咲紀達と合流が出来た。
「おにぃ~、こっち~♪」
そう手を振って翼を待っていた咲紀の隣には、見慣れないサングラスを掛けた外国人が一緒に立っていた。
見慣れない・・・?
本当に??
そう、一瞬思考が停止したが・・・翼の昔の記憶の中にその外国人の男の子は居た・・・
けど、その記憶の中では、彼はもっと小さかったが・・・
でも、外国人の知り合いは・・・
そんな事を改札を出ながら咲紀までの距離を考えていたが
外国人の男がサングラスを取りこちらを向いた
その瞳、その顔に昔の面影があった
「え?! ウー?!」
思わず、そう呼んでいた。
そう翼が言ったのが早かったか、男の行動が早かったか・・・
翼は、「ウー」と呼んだ男に抱き上げられていた。
「つーくん!! 久しぶりだよぉ~!! 覚えててくれて嬉しぃ~よ~!!」
「ちょ! ウー!!恥ずかしい!!」
「えー、久々に会えて嬉しい~のに~」
そう言って、抱き上げたまま翼の両頬に軽くキスを落とす。
「ちょ!ウー!!」
何をされた気が付いて真っ赤になってしまう
「あはは! ツバサは照れ屋だね。」
「はぁ・・・。ウォルフ、おにぃが固まってるから降ろして・・・」
咲紀に言われて、翼を地面に降ろすその男をマジマジと観察してしまっていた。
「ってか・・・ウー、デカくなったな。」
「あはは、つーくんが小さくなったんじゃないかな?」
そう言って翼の頭の上に手を乗せる。
「いやいや・・・これでも、オレ170はあるし!!」
そう言ってその手をどける。
そんな二人に咲紀が溜息をつきながら移動を促した。
「おにぃ・・・、ウーは外国人なんだからこれくらいは当たり前じゃない? ほら、通行の邪魔になるし、早く行こ?」
そう言って先に行こうとする咲紀を、ウーがエスコートする。
そのウーの手には、自分がさっきまで担いでいたカメラバックも持たれていた。
「ウー、荷物・・・」
「今日は、つーくんをエスコート出来ないから、これくらいは持たせてよ。」
そういって、軽くウインクをされる。
一瞬思考が止まったが、外国人という事が寛容にさせるのか・・・それとも、翼の記憶にある感情がそうさせるのか・・・
翼は、笑って受け入れていた。
「・・・サンキュ。」
翼の記憶の中に居る彼「ウー」は、まだ幼かった。
父親の仕事の都合で、暮らした所で彼とは出会った。
父親の昔からの友人の子らしく、年も近い事もあり3人で過ごす事が向こうでは多かった。
彼の名前は、エゼルウルフ・アーサー・エッツォ・・・・って、言われても子供には難しくて、ウルフから「ウー」になって、愛称の「ウォルフ」と呼ぶようにもなった。
昔の彼は、くりんくりの金髪の巻き毛に、青い瞳がまるで宗教画の天使の様だった。
背も、咲紀と同じ位かそれよりも少し小柄で、最後にあった時も中性的な雰囲気があった男の子だった。
そ、それが・・・
少し会わなかった間に
背は翼より遥か高く
身体付きも、均等の取れた筋肉
顔付きも、中性的な顔から今では男の顔になっていた。
すれ違う人達が、ウォルフの姿に見惚れていた。
相馬も、すれ違う人が見惚れたりするけど・・・、ウーも凄いなぁ・・・。
「つーくん、どうかした?」
「おにぃ、疲れた?」
二人同時に翼の方を心配そうに見た。 その顔は翼の記憶の顔と変わっていなかった。
「ん~、お腹すいたなぁ~って思って。」
なんとなくそう答えていた。
昼はスタジアムで、田中さんが用意してくれていた弁当を食べてはいたが、自分も試合に出てた様な気分になっていたのか・・・
答えて、自分が空腹だった事に気が付いた。
少し、考えてウォルフがどこかに携帯で連絡を入れた。
「じゃあ・・・先に、ディナーにしようか!」
そう言って、駅前でタクシーを拾いこの街御馴染みのショッピングモールに来ていた。
「えええ?? 飯にするんじゃなかったのか??」
「そうだよ! だから、その恰好じゃ入れないからね。」
そういって、次々とウォルフは服を選んで翼を試着室へ押し込んだ
「さーやにはこれがいいかな?」
咲紀も同じように試着室に押し込まれる。
「ちょ! ウォルフ、私も着替えるの??!」
「うん! 今のさーやも可愛いけど、僕の選んだ服も来て欲しいから、着替えて。」
そう言って、咲紀の頬にkissを落とし、試着室のカーテンを閉めた。
着替えた二人を見て満足そうに、したウォルフが連れて来たのは青桐家の所有するホテル最上階にあるレストランだった。
「ちょ・・・ウォルフ、ここ?」
予想よりもはるかに豪華な所に連れてこられて、翼は戸惑っていたが、咲紀とウォルフはさも当然の様な顔して入り口に立っていた。
「おにぃ、早く入ろうよ? 私もお腹すいてきたよ~。」
「ほら、つーくん。」
ウォルフが咲紀にしているように、反対側の手を差し出しエスコートするポーズを取ったので、思わずその手を取ってしまった。
それに、一瞬驚いた反応をしたがすぐに、その手を腕に組みなおされ
ウォルフは二人をエスコートして中に入っていった。
席に案内される時、咲紀にこっそりウォルフが耳打ちをした
『ふふ、僕役得だね♪』
『ウォルフ、調子にならないでよ?』
楽しそうに笑うウォルフに、咲紀が眦を少し上げて釘をさす
「・・・?二人ともどうかした?」
先に席に着いた、翼が不思議そうにこちらを見るが、咲紀とウォルフの会話は聞こえてなかった。
聞こえていたとしても、翼には二人話ている言葉は理解できなかった。
ともだちにシェアしよう!