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二種類5個

ドサッ 相馬は部屋に着くなり、荷物を乱暴に置いた。 「田中、例の報告。」 「ハイ。こちらになります。」 手渡された書類に目を通すために部屋のソファーに腰掛ける。 そのタイミングで、田中が紅茶を入れ始め・・・ クーラーボックスが無い事に気が付いた。その時、部屋のドアがノックされた。 田中が確認するとドアの前に恭一が、クーラーボックスをもって立っていた。 「相馬様に、こちらお返しするのを忘れてました。」 そう言って、クーラーボックスを手渡した。 「そうでしたか・・・。ありがとうございます。」 「いいえ。 それでは失礼いたします・・・。」 恭一は一礼をして田中はドアを閉めた。 クーラーボックスを持ったまま田中は少し考えていた。そして徐に、中を開け確認した。 「・・・田中?」 書類に目を通していた相馬が、ドアの前で固まっていた田中に声を掛けた。 普段、あまり表情に出さない田中の顔色は青くなっていた。 「相馬様、申し訳ありません!!」 そう言ってクーラーボックスの中身を見せて来たが、相馬はその中身を初めて見たので、田中が言いたい事を理解するのに少し時間が掛かってしまった。クーラーボックスの中には、二種類のゼリーが5つ。 「・・・まさか?」 「ハイ・・・。おそらくは・・・。」 クッソ!! 油断した。 部屋を勢いよく出て、離れの方へと急ぐと急いでいる様子の恭二と出くわした。 「あ!! 相馬!! 丁度、良い所に!!!!  今、リオが倒れて・・・それで・・・」 息を切らしながら、恭二は相馬をリオの元へ連れて行った。 其処には、青白い顔をしたリオとそれに付き添っている恭一の姿。リオは部屋のソファに寝かされていた。 テーブルには、さっき見たばかりにゼリーの容器が置いてあった。 「・・・恭一、リオは?」 「あ、相馬様・・・、リオ様がそちらのゼリーを口にした途端倒れてまして・・・。」 其処に、駆け付けた八月朔日家お抱えの医師が到着し そのまま、リオは病院へ運ばれていった。 その騒ぎの中、田中にテーブルの上のゼリーを調べる様に相馬は手配していた。 部屋に戻るなり、田中は相馬に謝罪したが、相馬はそれを制止した。 「・・・相馬様大変申し訳ありません。私が、もっとちゃんと保管しておけば・・・。」 「いや、気にするな・・・。僕の不注意だ。」 そう言って、クーラーボックスの中に残されていたゼリーを一つだし、スプーンですくった。 「そ、相馬様!! 」 「・・・大丈夫。 一口位、食べさせてくれ・・・。」 「けれど・・・。」 視線を田中に向けると、それ以上は何も言わなくなり、新しい紅茶を入れる始めた。 「・・・うまい・・・。」 思わず漏れた一言に、田中は申し訳なさそうな顔をした。

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