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はっとして~ぎゅっとして~
「・・・恭二、一体・・・・何を見た?」
その声に、下げたままだった頭を上げ目の前に座っている相馬をみた
その顔を見た瞬間、恭二は自分だけが何も知らなかったんだと悟った。
恭二の前に、書類が放り投げられた。
「・・・見ても良いのか?」
相馬はどうぞと手だけ動かし、田中の入れた紅茶に口を付けた。
書類を読み終わった恭二は、この部屋の前に居た時よりも更に顔色が悪くなっていた。
田中が冷めてしまった紅茶を、入れなおそうと側へ近づいた瞬間
恭二の身体が強張ったかと思ったら、そのまま口元を押さえて部屋に備え付けられている洗面所へ駈け込んでいった
「・・・何も知らなかった様だな。」
「・・・その様でございますね。」
相馬に紅茶のお替りを注ぎ、田中は恭二の元へタオルを持って行った。
ゲホっ!!
洗面台に突っ伏したままの恭二に、相馬が水のボトルを差し出した・・・
ボトルを受け取り、一気に飲んだ恭二は、いつもの温和な顔を厳粛に曇らせたが、その目には何かを決意した様な強い光が灯っていた。
「・・・相馬様、私は何をしたら宜しいでしょうか?」
その言葉に、相馬は静かに微笑んだ。
翼は、ウーと咲紀に付き合ってこの三日間、きらめきヶ丘の案内や学園の案内。あの伝説の展望台にも行ったりした。
そして今日は、あの伝説のおかげで結婚した人達の所に来ていた。
「あ・・・!」
翼は、思わずその二人の顔を見て驚いてしまった。
前に、ホテルの中庭で結婚式をしていた二人だった。
今日会う人物は、ウォルフが初めて自分で選んで投資した人達と翼は聞いていた
まさかそれが、この人達だったとは・・・。
内心びっくりしたが、翼自身は接点の無い人達だったので、「どうかした?」とウォルフに聞かれたが、何でもないと伝え、施設内にあったカフェテリアで翼は待ってる事にした。
この施設は、どうやら病院と研究棟があるらしく両方の中心がカフェテリアになっていた。
翼は、アイスティーを注文し、テラス席に出る事にした。
「ふぅ・・・、だいぶ暑くなってきたなぁ・・・。」
青々と茂った木の葉の間から、太陽の光が差し込む
雲一つ無い青い空を見上げた
不意に、相馬の顔を思い出してしまった。
田中さんに差し入れを託した後、メールが一度来たきり・・・いつものメルマガも無かった・・・
「・・・また、何かあったとか・・・」
物思いに耽っていた所に、後ろから声を掛けられた。
「・・・翼?」
「うぁ・・・。幻聴まで聞こえた・・・・」
「・・・幻聴?」
「え?」
後ろを振り返ると、其処にはさっきまで思い出していた人物の姿が有った。
「翼、何が幻聴?」
「!? 相馬、なんでここに?」
「ああ。ちょっと用事があって・・・」
「そうなんだ・・・。オレも身内の用事終わるの待ってるんだけど・・・」
「・・・? どうかした?」
思わず、視線をそらしてしまった翼の頬に、相馬が手を伸ばす。
「あ、あのさ・・・相馬?」
「なに?」
相馬の手が、翼の頬に触れる
弓を引く所為か、見かけよりもずっと固く翼よりも大きな手は、涼しい所に居た所為か冷たく、日陰とはいえ外に居た翼の火照った頬を心地よく冷やした。・・・気持ちい。
思わず、その心地よさに摺り寄ってしまった。
「・・・つ、翼・・・」
「ゼリー口に合わなかったか?」
相馬の手に自分の手を重ねて、翼がそう尋ねたが想像もしてなかった所から、答えが返ってきた。
「!!! そうま君から離れろ!! この人殺し!!!!」
「え?」
「リオ!!」
水色の患者着を着た、黒髪の子がそう翼と相馬を見て叫んだ
幸い、日が高くなった事で気温が高く暑いテラス席には翼と相馬以外は居なかった。
其処に、リオは現れたのだった。
「・・・え・・? 人殺しって・・・?」
「とぼけんな!! お前が渡したゼリーに毒が入ってたんだよ!!!」
「え・・・? 相馬?」
相馬は、翼の身体ごと、自分の方へ引き寄せた。
その行動に、カッとなったリオが翼を掴もうと手を伸ばした
「お前なんなんだよ!!! そうま君は僕のだ!! 僕がそうま君に相応しいんだ!!離れろよ!!」
「そ、相馬様すいません。 目を離した隙に病室を抜け出してしまって・・・」
慌ててやってきた恭二に、リオが取り押さえられる。
「離せよ! 恭二!! 離せ!!! こいつが、そうま君を狙ったんだ!!離せ!!」
「・・・恭二早く連れていけ。」
腕の中の翼を自分の方へ向かせ強く抱きしめ直した。恭二がする事を翼に見せない為に。
「そうま君、なんで!? 僕は、そうま君の身代わりになったのに?なんで、そんな奴なんか!! そんな奴しん・・・・」
恭二が、暴れるリオの気を失わせ、そのまま病室へ運んでいった。
相馬に抱きしめられる様な恰好のまま、翼はリオの所為で身体が震えていた。
「お、オレの作ったゼリーに・・・毒・・・・・?」
きっと、あの子の言った事は本当だろう・・・。 オレの作ったゼリーで・・・
もし、相馬がそのせいで死んでたら・・・。
「翼・・・大丈夫か?」
一旦、腕の中から解放し翼の様子を見ると震えている翼の顔は、血の気も無く青く今にも倒れそうな様子だった。
「つば・・・」
「つーくん!!! 一体どうかしたの!?」
その声に、反射的に翼は振り向いて抱き着いていた。
「ウー、オレ・・・オレ・・・。」
ぽんぽん
翼の背中を優しく、ウォルフがあやす
「ツバサ、大丈夫? 僕が居るから、安心して。」
そう言って、翼をウォルフは抱きしめ頬に、キスをした。
「! おい!」
「・・・君、なんなの? つーくんの知り合い?」
二人の間に、火花が散った
何方も譲らなかったが、相馬の元に田中が呼びにきた為
先に相馬は、其の場から立ち去った。
「大丈夫? どうかしたの?」
「オレ・・人を殺してたかも知れないって・・・そんな・・・そんな事・・・。」
そんなのオレは知らない・・・。だってここはゲームの世界なのに・・・
なんで・・・、どうして・・・
そのまま、翼は意識を失ってしまった。
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