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兄 恭一 (恭二 視点)

「おにぃ!!! 倒れたってウォルフから聞いたんだけど!!!」 咲紀が慌てた様子で、ベットルームに入ってきた。 「今、目が覚めた所だよ。」  咲紀の手を取り、側に座らせる 「・・・おにぃ、大丈夫?」 「・・・うん。 二人ともありがとう・・・。」 「ほら さーや、つーくん、もう少し休ませてあげようか?」 ウォルフが咲紀を促した 少し慌てて、翼がウォルフに声を掛けた 「あ・・・うー・・・」 「うん、つーくん、安心して・・・。」 にっこりと微笑んで、二人はベットルームから出て行った。 ベットルームから出た二人の顔は、表情が消えていた。 コンコン ノックと共に、ドアを開ける。 手に持ったトレーをテーブルに置き、部屋のカーテンを開ける。 窓は嵌め殺しの為、開ける事は出来ない。 昨日、持ってきたトレーの上には手つかずの食事が残っていた。 ベットの上で微動だにしない恭一に、恭二は声を掛けた 「・・・恭一・・少しは食べないと、体がもたないぞ?」 「恭二!! リオ様に会わせない!!」 ガシャン 手首に付けられた拘束具の鎖が引っ張られる 「・・・少しでも食べないと、ここから出る事は出来ないよ。」 そう言って、恭二は部屋を出た 「恭二!」 ボフッ 枕がドアに投げつけられたが、もうそこには誰も居なかった 相馬の部屋答えを求めて行った日に、云われた事はただ一つ。 恭一と莉緒を引き離す事だった。 睡眠薬で、恭一を眠らせこの場所迄運んだあと、すぐに莉緒は青桐家所有の医療機関へと転院させられていた。 そこまでしなければいけない理由が恭二には見当がつかなかったが、今となっては自分一人では莉緒を守る事も、恭一を守る事も出来ない事くらいは理解していた。 あの日、恭二が見てしまった事はあの二人には日常の一コマでしかなかった事・・・ 自分の知らない所で、あの行為はもう何年も行われていた事・・・。 そのきっかけになった事件の事。 全てが、恭二の知らなかった事だった。 莉緒がリオになった切っ掛けを恭一は、ただの誘拐として恭二には伝えていた。 少し乱暴され、精神的に不安定になっているのを落ち着かせるためだと・・・ 莉緒に弟が出来、その事でも精神的に不安定になっているからとも聞かされ自分はそれを信じていた。兄、恭一の言う事は昔から間違ってなかったから・・・。 兄といっても、数分先に産声を上げただけだったが、恭一は自分よりも遥かに出来が良かった。学業、家業、すべてにおいて恭一の方が秀でていた。 そんな兄と常に比べられる事は、プレッシャーでもあったがどこか冷めた気持ちでもいた。 優秀な兄のいるおかげで、自分は自由に出来る。 自分は考えなくても良い。そう考えていた。 相馬に対しても、自分と似た様な環境だと勝手に親近感を感じていた。 優秀な兄姉達が居て、それらと比べられる事の重圧は自分の比では無いのだろうと・・・少し憐れんでも居た。 けれど、相馬は違った。 自分とは違い、あの青桐家の次期当主として自分の立場を受け入れる決意をしていた。 八月朔日家に仕える様になった頃、莉緒は青桐相馬に一番近いと周りにも思われていた。 また、その為に青桐家より依頼され自分達が幼い莉緒の護衛として一緒に暮らす事にもなった。その頃の相馬様は、莉緒の事も周りから向けられる視線、期待、重圧全てにおいてどこか、他人事の様に感じている所があった。 その事は、莉緒にはまだ理解出来てなかったのだろう・・・。 彼は昔から、莉緒の事をそう言う目では見ていなかった。 許嫁や婚約者と囁かれようが、最初に動くのはいつも莉緒の方だった。 それでも、彼が噂を撤回させなかったのは莉緒以上の都合の良い相手が居なかったら。 莉緒が事件に巻き込まれ、ここを離れる事になっても彼から莉緒に対して連絡が来る事は無かった。 八月朔日の人間も、莉緒ではなくリオの事を受け入れていた。 その方が、八月朔日にとっては都合が良かったからだ。 そんなリオは、向こうに居る間もずっと彼と結婚する事を夢見ていた。 なんで、その時に気が付けなかったのだろう・・・。 もともと、こっちに戻っては来ても、またすぐ戻る予定だった。 それが、莉緒の継母の妊娠発覚と、家元が倒れてしまった事により、状況が変わったのだった。その御蔭で莉緒はリオで過ごす時間が増えていった。  学校へ居る時は、莉緒として過ごしていたが、それ以外は全てリオで居た。 そんな時は決まって、恭一が側仕えをしていた。 どこへ行くにも、リオは恭一を呼んだ。 「・・・その頃にはもう・・・。」 思わず、声に出してしまっていた。 誰も居ない廊下に、自分の声が響いた。 思わず、手で口を押さえるが周りには誰も居ない その事に思わず、恭二は身震いした。 怖い。 誰も自分の周りに居なくなってしまう事は怖い。 本当は、恭一と自分は半分しか血の繋がりはない。 けれど、自分の母は恭一の事も、自分の子の様に育ててくれた。 でも、そんな母を父はすぐに裏切った。そんな父に耐えられなくなり母は心を病んで自ら命を絶った。 それから直ぐに、新しい女が父の妻になり。自分達に母親と呼べるものは居なくなった。新しい女には、まだ子供は居なかったが自分達には辛く当たってくる事があった。そんな時に、自分と恭一は双子では無いと教えられたのだ・・・。 今思えば、その頃にはもう父は新しい女だ居たのだろう。 そんな父でも、武道事に関しては優秀だった。 稽古をつけている時に父は厳しいながらも尊敬できる所もあった。 だから、父に莉緒の護衛の仕事を任された時は嬉しくもあったし誇らしくもあった。 それは恭一も同じだと思っていた。 今回の件で、父は自分達とは縁を切るだろう。 そうなれば、もう自分達には帰る場所は無い。

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