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ホテル暮らし (翼→咲紀 視点)

あの日から、翼の携帯は咲紀が管理していた。その間も毎日相馬からメールが着ていた。 翼は、ウォルフのホテルに咲紀と三人で泊まっていた。 翼に向けられた敵意をウォルフと咲紀が心配した結果、ホテルから一歩もあの日以来出して貰えていなかった。 ウォルフと一緒の時は、まだホテル内のジムやスパに行く事は出来たが、咲紀が一緒の時は、終始こんな感じで翼は話をさせて貰えていなかった。 今日は、ウォルフが昼過ぎまで家の用事で外出してしまっているせいで、咲紀を二人でホテルの部屋でルームサービスを頼んで朝食を食べていた。 向かい合わせで座ってモーニングセットを食べている咲紀に、どっちが年上なのかと思う位顔色をうかがいながら、翼は咲紀に聞いていた。 「・・・咲紀・・・。相馬から・・・」 「連絡なら来てないよ。」 オムレツをスプーンですくいながら何でもない顔で、咲紀が翼に嘘をつく。 この顔は、咲紀が嘘をついている時の顔。 嘘だと翼は思っても、どこかで本当に連絡は無いのかも知れないと思ってる自分も居る。 あの日、あの子が言った「人殺し」って言葉は、翼を深く傷つけた事は相馬も解っていた。 だから、翼は期待してしまっていた。相馬から、何かしらの連絡がきて自分を安心させてくれるんじゃないか・・・と。 けれど、二人に携帯を取り上げられ、あの日以来部屋にも帰っていない。 相馬の試合も、リョウの試合も観に行けていない。 部長には、咲紀が連絡をしてくれたから撮影自体は問題ないらしいけど・・・。 「・・・あ、宿題。なぁ、咲紀ここにいるなら、宿題持ってきたいんだけど・・・」 ふと、思い出した様に咲紀に夏休みの宿題の事を伝えると、咲紀を忘れていたらしく、少し慌てていた。 「宿題! そっか、私も忘れてた!」 「明日には、父さん達の所に行くんだろ? 持って来たいんだけど・・。」 「うーん・・・。 わかった、私と一緒に行くだけじゃ不安だから、ウォルフが戻ってきたら車出してもらおうか。」 その提案に、笑顔で頷いた。 二日ぶりに外に出れる!!  早く、ウォルフ帰ってこい~。 少し気分が浮上したおかげで、さっきまでフォークで突っついていたサラダとオムレツを完食する事が出来た。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 目の前で完食した翼を見て、咲紀はホッとしていた。 おにぃのゼリーに毒物が入ってたとウォルフから聞いた時は、なんの事なのか一瞬解らなかった。 青桐相馬ルートで最大のネックは、あの『八月朔日莉緒』の存在だったはずだけど・・・ 『人殺し』=『殺人』はこのゲームに無い出来事。  現に、誰も死んではいないけど・・・、あの子がおにぃに『人殺し』と突っかかる事なんて、私はシナリオに書いてない。 私が、ウォルフを呼んだから? シナリオが変わったの??  青桐相馬のルートだと、おにぃは『八月朔日莉緒の側近』の所為で埒られ、暴行されそうになる所を相馬君が危機一髪で助けに入るのだけど・・・、『八月朔日莉緒の側近』はウォルフの話だと今は居ない・・・? ウォルフにおにぃを運んで貰った時に、携帯に相馬君からメールと着信が着てたから速攻電源は切った。 このホテルの場所を特定されても構わないけど・・・、シナリオが変わってしまった今、おにぃに何が起きるか分からないから、 相馬君があの子の事に決着をつけるまで、相馬君におにぃは近づけない方が良い。 おにぃの顔を見てると、罪悪感で胸が締め付けられるけど・・・ 知らない事が起きるなら、おにぃに嫌われても良いから今は相馬君とは合わせない方が私は安心する。 ウォルフを呼んだのは『八月朔日莉緒』が身分や家柄に執着があったから、おにぃがそれで不利にならない為に呼んだのだけど・・・、それが悪影響だったのだろうか? けれど、ウォルフは本作にも私のゲームでも主要キャラではないポジション。 だから、大丈夫だと思った。 けど、もしそうじゃなかったら・・・。 もう、家族が自分の所為で死んでしまうのは嫌だ。

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