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矢場(1)
シュッツ・・・
空を切る音が静寂を破った。
音共に、的に矢が刺さる。
いつも様に、規則正しい矢を射る音
相馬の弓の音。その音に混ざって、弓道場から雑音が聞こえる。
弓道場のは、相馬以外に的の横にも、芋虫の様に手足を拘束された人影があった。
少しでも、横に倒れれば射られる弓の的になってしまう状況に、相馬の横で青くなっている莉緒が、許しを乞うが相馬は視線を寄越す事も無く、一矢一矢的に打ち込んでいった。
手元の矢が無くなると、側に控えていた田中が手渡す。
その後ろでは、表情を固くした恭二が付き従っていた。その傍らに莉緒は摺り寄りに行くが恭二も視線すら莉緒に向ける事は無かった。
「・・・や、やめて・・・。恭二・・そうまくん・・・止めてよ・・・恭二・・・」
シュッツ・・・
的のギリギリ端に矢が中る
「ヒッ・・・! や、止めて・・・」
的の横にある顔に遠目では刺さってるようにも見えるが、弓を放った相馬自身は動じる事無く田中に問う
「・・・僕が外すと思ってるのかな・・・?」
「いえ、相馬様の腕前でそんな事はあり得ません。」
また一矢手渡される
シュッツ
また一矢・・・
どんどん、的に矢が刺さっていく
莉緒の顔から、色が失っていくのと同時に、瞳からは涙がこぼれ落ちていく
「ご・・・ごめんなさい、そうまくん・・・許して・・・ください・・・。」
シュッツ
「そ、相馬君!!」
思わず、弓を放つ瞬間に相馬に駆け寄ってしまった、そのせいで一瞬弓を放つタイミングがずれた。
ザシュッツ
「ヒッ!!」
的の横を弓が掠める
その音で、的の横に座らされていた男の意識が戻った。
反射的に、射場の方に居る莉緒の元へ、前に這って行こうとするが相馬は構わず、男に向かって弓を構え始めた
「!! り、リオ・・・。」
「や、止めて・・・相馬君!!」
シュッツ
頬に一筋の血の流れが出来る
「・・・莉緒、邪魔すると手元が狂うよ・・・。」
「・・・なんで!! なんで、そんな事するの!! そんなにアイツが大事なの!!?? 」
矢を渡す田中の指先が一瞬震えたが、すぐに次の矢を手渡す
シュッツ
空を切る音の中に相馬の良く通る声が響く
「・・・莉緒、アイツって誰の事言ってるのかな?」
其の場の空気が下がる
「だって、アイツが現れなかったら、そうま君だって!!!」
相馬の袖を掴もうと手を伸ばすが、田中が割り込んで矢を手渡す
シュッツ
矢が、顔の前に刺さる
「うわっ!」
「!! きょう・・・」
前に出ようとする莉緒を恭二が押さえる
シュッツ
また、同じ場所に矢が刺さる
「ああ、手元が狂ったかな・・・。莉緒、僕の一番嫌いな事・・解る?」
「あ・・・あぁ・・、やだ・・・!」
莉緒は恭二の押さえを振り切って、這ってこようとした恭一の前に立った。
「・・・り、莉緒。」
自分の前に立った莉緒を恭一が見上げる
「・・・莉緒、其処をどきなさい。」
「・・・やだ・・・」
「莉緒、其処をどきなさい・・・・」
「やだ・・・やだ・・・」
「莉緒!!そこをどけ!」
思わず、相馬が声を荒げてしまうが、莉緒は退かない
「嫌だ!!! 絶対退かない!! 矢を射るなら僕ごと射ればいい!!」
涙でぐしゃぐしゃになった顔で、今まで見せた事無い真剣な表情を莉緒が見せた
其の場に流れる空気が一瞬変わった
ガタン・・・
いつの間にか戸の前に居た翼が、其の場の空気に気圧され戸に身体が触れてしまった。
「つーくん、大丈夫?」
「・・・う、うん。」
翼の身体を支える様に、立っていたウォルフに相馬が視線を向けるが、そのまま莉緒の方へ矢を構える。
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