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矢場(2)
その事に気が付いた、翼が相馬のもとへと駆け出していた。
「だ、駄目だよ!!相馬!!」
弓を構えていた背中に思わず、しがみついてしまった。
その反動で、一瞬弓を引く腕に力が入った様だったが、矢は莉緒の横を掠め綺麗に後ろの的に当っていた。
莉緒は其の場へしゃがみ込んだ
其処には、言い難い恐怖からの反射反応で粗相をしてしまっていた。
「・・・翼、弓を引いてる時は近寄ったら危ないよ・・・。」
背中にしがみついていた翼の腕を取り、向き合う様に体制を相馬は変えた。
「け、けど・・・相馬、あの子に弓を・・・。」
「俺が、あの子に当てる訳ないだろ?」
「だ、だって・・・相馬・・・」
相馬の弓道着をきゅっと掴んだ翼を優しく抱き入れた。
「・・・翼・・。」
んっンフン!!
咳払いの音と共に
そのまま、視線をウォルフの方へと相馬は向けた。徐に、ウォルフの母国語で話始めた。
『エゼルウルフ・アーサー・エッツォ様、こんな辺鄙な場所までわざわざ、御足労頂き申し訳ありません。私の翼が世話になった様で・・・』
急に、解らない言葉で話始めた相馬に一瞬戸惑ったが、どこかで聞き覚えが翼にはあった。
そ、相馬?これって、咲紀がいつもウォルフと話してる言葉・・・
相馬の腕の中で、思わず翼は相馬の顔を見上げた。
ウォルフが、その様子に一瞬表情を変えた様に見えたが、すぐにその顔は別のモノになった。
『あはは、面白い事を云うね。翼は僕にとっても大切な人だからね。気にしなくていい。それよりもアレはうちに引き渡して貰って構わないのだろ? 』
ニヤリと口元だけで笑うウォルフに、相馬も動じる事無く答える。
『ああ、もうウチとは関係ない。好きにして構わない。』
その言葉を待っていたかの様に、どこからともなく黒いスーツの男たちが的場に居る恭一と莉緒を取り押さえた。
「そ、相馬君!! なんで、相馬君!! 」
「八月朔日莉緒、君を八月朔日家から除籍とする。 今後、青桐家は八月朔日家には一切の援助は行わない。・・・連れていけ。」
「そうま君・・・」
連れていかれる莉緒を一瞥しすぐに視線をウォルフの方へと向ける。
『・・・まだ、何か?』
『ああ、そうだった! 忘れる所だったよ。』
そう、ウォルフが言うのが早かったか、それとも相馬の顔に平手が飛ぶのが早かったか・・・
『これは、僕の大切な人を泣かせた分だよ。』
!!!
「う、ウォルフ・・・!?」
『・・・意味が解ってるみたいで、良かったよ。』「つーくん、先に僕は帰るから彼に送って貰うと良いよ。」
「え・・、あ・・・」
言い淀む翼に相馬の腕に力が入る。
「ああ、言われなくとも、ちゃんと送り届ける。」
『次は無いと思え。青桐のガキ』
二人の間に火花が散った
二人の話してる事は翼には一切解らなかったが、腰に回されていた腕の強さに翼は正直それどころでは無かった・・・。
「あ、あの・・・相馬、もう離して貰えないかな・・・。」
気が付くと、相馬に抱きしめられる形で翼は居た事に今更ながらに居たたまれなくなっていた。
見上げると、さっきウォルフに叩かれた頬が赤くなっていた。
「あ、相馬!! これ、早く冷やさないと!!!」
思わず、赤くなっている方の頬に手を伸ばしてしまう。
その手を掴まれ、掌が頬に触れる。そしてそのまま、翼の掌、指先に相馬の唇が触れていく。
「翼の手、気持ちいいね・・・。」
相馬に手を握られ、腰にはもう片方の腕がしっかりと回されていた。
「そ、相馬!! ちょっ・・・・」
近い近い近い・・・!!久々の生相馬過ぎて心臓が痛いぃぃぃ・・・!!
ひぃ!!!!!!!!!
「翼・・・ごめん。・・・今回の事、本当にごめん。」
翼の手を握りながら、相馬が見た事も無い様な落ち込んだ様子で俯きながら
何度も翼に謝っていた。
「・・・相馬・・・。もういいから・・・顔を上げてよ。」
そう言って、空いてる方の手で今度は反対の頬に触れた。
その手も、相馬に捕まえられる。
「・・・翼・・・。」
「・・・相馬・・・。」
そのまま見つめあう二人は・・・・・・・・・
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