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パンパンに腫れちゃうよ?
ひっくひっく・・・
「おにぃーが、おにぃーがぁぁ・・・」
「ああ、さーや泣かないで・・・」
ポンポン
咲紀の頭を優しく包み見込みながら、ウォルフが撫でる。
「さーや、君だって解ってたんだろ?」
「けど、けど・・・」
ぽろぽろと咲紀の目から涙がこぼれ落ちる。
ウォルフ達が相馬の居る弓道場へ移動する時、後から咲紀はウォルフの手配した車で向かっていた。元より、相馬と翼の邪魔をするつもりでウォルフが弓道場から戻ってきた後も、出発する事無くタイミングをうかがっていたのだった。
「そもそも・・・ウォルフが、おにぃーを相馬様の所に連れて行くから・・・。」
ひっく・・・
ハンカチが手渡される。
「・・・さーや、つーくんは相馬に会いたいって自分の意思で思ったんだよ。」
「でも!! 私、ウォルフに言ったよね!! 相馬様のイベントの事! もし、おにぃがあの時アイツに汚されてたら・・・私・・・ひっく・・・」
「あぁ、さーや。そんなに泣いたら、目が取れちゃうよ? ほら、擦らないで・・・」
ウォルフに引き寄せられ、ウォルフの胸に寄り掛かる様に咲紀が頭を寄せる。
「けど、つーくんは相馬の事がホントに好きなんだね。」
「・・・そうよ。 だって、このゲームの主人公はおにぃだし・・・、相馬様は攻略対象だもの・・・。」
泣き疲れたのか、咲紀はウォルフの胸で眠ってしまった。
赤くなってしまった目元に残っていた涙を指先で拭いながら、初めて咲紀から前世の事を聞いた日の事をウォルフは思い出していた。
咲紀は、翼よりも大人びた発言をしたり考え方をする事があった。特に翼に対して、どっちが上なのか解らない程だった。そんな中、泣きながら翼の元に会いに来た事があった。
「さーや?! どうしたの!!! 怪我してるの??」
「ひっく・・・おにぃ・・・が・・・。」
「え? つーくんなら、係で先生の所に・・・って、さーや!! 待って。僕も一緒に行くよ!」
泣きながら、校舎内に入って行こうとするのを制止し、手を繋いで引き留めた。
その頃には、僕と彼らは愛称で呼びあえる位には成っていた。
「おにぃが・・・おにぃが・・・、死んじゃう・・・。やだぁ・・・」
泣きじゃくる咲紀を思わず抱きしめるとぽろぽろと支離滅裂な事を話だした。
その時、自分の腕の中で泣きじゃくる存在を愛おしく感じた。
今も、あの時と同じように自分の腕の中で彼女は涙を流した。
・・・、やっぱりもう一発殴っておくべきだったか・・・?
彼女が安心して泣けるのは自分の腕の中だけで有って欲しい。
その為なら、僕をいくらでも手を貸すよ。
だから、しっかり翼を捕まえておけよ・・・。
流れる景色を横目に、膝を枕に眠っている咲紀を撫でた。
「・・・相馬、顔冷やさないと・・・。」
「翼は、一緒に行かなくて良かったのか・・・?」
頬に伸ばされた手を、相馬に掴まれる。
「・・・また、叩かれたら流石に・・・。」
そう言って、手を握られる。
「た、叩かないよ!! ほら!! 田中さんに言って、冷やして貰おう!!」
そのまま、握られた手を引いて矢場を出ると外で田中と恭二が立って居た。
「・・・相馬様、こちらを」
用意周到に田中が手にしていた、保冷剤を差し出したそれを受け取った翼が相馬の頬にあてた。
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