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ウォルフと咲紀

「さーや、まだ怒ってる??」 「・・・別に。もう怒ってないけど、拗ねてる。」 そう言いながら、朝食のワッフルを一口。 「そっか、そんなお姫様のご機嫌はこれで直らないかな?」 そう言って差し出された書類に咲紀は目を通した。 「・・・ウォルフ、コレ本当なの?」 「さーやのお願い通りじゃなくてごめんね。」 「そんな事無い!嬉しい!ウォルフありがとう!!」 「機嫌が直って良かった。それから・・・、あの子が翼達に会いたがってるらしいけど」 ザクッ! 「嫌だ・・・。けど・・・。」 ザクッザクッ・・・ フォークで、思わずワッフルを刺してしまう。サクサクの生地がみるみる崩れていった。 それでも、咲紀は刺すのを止めなかった。 「・・・さーや。食べるとこ無くなるよ・・・。」 「あ、ごめん・・・。 それはおにぃに任せるよ・・・。」 もう、おにぃに危険はない。 シナリオとは少し変わってしまったけど、八月朔日莉緒を拉致監禁暴行した人物はもう居ない。 ホント、あの時の私を呪いたい。 なんであんなシナリオぶっこんだんだろう・・・。監禁も凌辱もやっぱフィクションだから良かったんだ。実際に身内が拉致監禁とか・・・。もし、おにぃがあのまま帰ってこなかったら。 頭ではそんな事無い。おにぃがこの世界の主人公なんだから・・・そう解ってるけど。 でも、私が作ったシナリオ通りに成ってない事が怖い。 「さーや、もうこれは食べれないから、こっちどうぞ。」 ウォルフが咲紀の手元の皿を自分のと交換する。 「・・・ウォルフは、なんで私の話を信じたの?」 私が唯一、この世界が自分の作った世界だと話した相手。 この世界の両親にさえも話していない事を、私は彼にだけ話した。 彼が、おにぃの攻略対象じゃないから・・・。 けれど、彼はなんで私の話を信じてくれたのだろう? 「ん~。さーやが好きだからかな?」 「・・・ウォルフ? 私はまじめに言ってるんだけど。」 「僕も真面目に答えてるよ。咲紀、僕は君が好きだから君の言葉を信じるよ。」 そう言って、テーブル越しに顔を寄せ、咲紀の頬にキスを落とすと、 少し不貞腐れながら交換されたワッフルを食べ始めた。 君は僕の言葉を信じてないんだろうけど。 君にとっての僕は、翼の対象人物かそうじゃないか・・・それだけだから だから、僕がどれだけ愛を君に囁こうが信じていない。 けれど、僕は構わない。最後に君が手に入るのなら。 そう、今回の事が無かったら僕はずっとそう思っていただろうね。 咲紀から、こっちに来て欲しいと手紙を貰った時も、またいつもの空想の話だと思っていた。 兄である翼の為の世界。初めてその話を聞いた時は、夢見がちな女の子なんだと思った。 同時に、兄の為にこんなにも純粋な涙を流せる事に僕は惹かれていった。 けど、今回の事で咲紀の話が少なくとも嘘ではないという事が実証された。 咲紀が嘘をついていると疑った事は今まで一度もないが、信じても居なかった。 咲紀が僕の言葉を信じてない様に・・・ 元々、咲紀から連絡を貰う前からこの国への視察は決まっていた。 あの薬について『青桐相馬』と『八月朔日莉緒』に会う事も。 それが、まさか・・・ 前に、咲紀が話してくれた『翼の攻略対象』だった事。これから、起こる『事件』の事。それらすべてが本当に起きた。咲紀の話は僕が本来関わる事が無い事だったから、少しシナリオをと変わってしまったと言っていたが・・・。 きっと、それだけじゃない。 だって、翼は『実の弟』の記憶を持っていたのだから・・・。 ああ、ホント 君たち兄妹は面白い。 シナリオ通りに生きてるようで、シナリオ通りで無い事に気が付いた時・・・ 咲紀、君はどんな顔をするのかな? けど、今回の様に僕以外の奴の所為で涙を流されるのは面白く無いから 君の望むシナリオ通りに『君のおにぃ』の事は助けてあげるよ。

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