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朝比奈(6)

「オイ。ハル、腕離せって。」 「別にいいじゃん〜。 翼君もヤキモチ焼いてくれるかもよぉ〜?」 先にラウンジに来ていた、黄瀬と翼はすでに食事を始めていた。 バイキング形式で、和洋中の食事が用意されていた。 オムレツはシェフが目の前で作っていて、ここからも二人の皿の上にもあるのが見えた。 ラウンジの入り口に相馬と腕を組んで入って来た時、こっちを見ていたのに気がついていたけど・・・。今は、二人で笑い合っていた。 何それ・・・。僕にそんな顔した事、無いくせに・・・。 やっぱり、彼の事が君は好きなんだ・・・。 僕みたいに、彼は捻くれてないしね。  それに・・・、あんな夢。僕は見れない。 エレベーターで相馬と二人になると、昨日翼君が話してくれた事を伝えた。   「はぁ? 翼が、夢で未来を見ることができるだと?」 「正確にはわからないらしいんだけど・・・、起こり得る出来事を夢で見るらしいよ・・・。」 「・・・予知夢って事か?」 「って事なのかな?」 「なんだ? 曖昧だな。」 「翼君自体も、そこまで把握してないんじゃ無いかな? けど・・・今回の夢は・・・。」 リョウの足は・・・ 相馬の腕に、朝比奈の指が食い込む。 「・・・ハル。」 朝比奈の手に、相馬の手が重なる。  「・・・相馬。」 「・・・指、食い込んで痛い。」 「・・・・・・。」 ギュュウウウウウ〜   更に、指が食い込んだ。 「ちょ・・・ハル。痛い。」 フン! 相馬の腕に、小さく爪の跡が残ったけど気にしない。 一瞬でも心配してくれたのかと思った自分が恥ずかしい! 気がついたら、そのままの状態でラウンジに来てたけど・・・。  何、あのポーズ・・・。 オレのが絶対可愛くできるから!!! だから、オレにもそんな顔見せてみろってんだ!! 「ハル、ネコが逃げてるぞ・・・。」 「・・・え。やだな。相馬!」ニコリ 「はぁ・・・。あいつにも見せればいいのに・・。」 「それは、無理。」 いつの間にか、皿の上にはオムレツ、ベーコン、サラダ、ヨーグルト。相馬もオムレツは選んだらしいが、和食ベースの朝食をトレイに載せていた。 二人の待つ、テーブルへと向かったのだった。 トレイを持って近寄ってきた相馬に、黄瀬がテーブルの上を少し片しながら声かけた。 「だいぶ、遅かったな・・・。」 「ああ、ちょっとな。」 「二人とも、もう食べ終わったの?」 「今、デザートだよ。 オムレツ、美味しかったよ!」 「オレ、お代わりしちゃったしな。」 「リョウは、食べすぎだよ!! まぁ、朝食だしアスリートだからいいのかもだけどさぁ・・・。」 「そんなに食ってたか〜?? 翼が小食なんじゃね? 腕も、ほっせーし。」 翼の腕を黄瀬が掴んで自分の腕と比べる。 陽に焼けた肌の黄瀬の腕は、男らしく、それと対比するかの様に、翼の腕は細く色も白かった。 朝比奈の前に黄瀬の腕が出され、相馬のトレイの上に翼の腕。 「・・・リョウ、食事の邪魔なんだけど?」 朝比奈が黄瀬を思わず睨んでしまう。 そんな様子など、お構い無しで相馬が箸を置いた。 「翼は、もう少し筋肉つけろ。 これじゃ、また倒れるぞ。」 目の前に出された、翼の腕も相馬が指でなぞる。 「「!!!!!」」 二人は大人しく、腕をしまった。 食後のコーヒーを4人で飲みはじめると、黄瀬がしみじみ言い始めた。 「なんか、夏休みもあっという間だったよな〜。」 「ホント、明後日から新学期とか・・・早い!!」 「翼君は、親御さんのところにも行ってたから余計に短く感じるのかもね。」 「二人とももっと遊びたかった〜。相馬も、新学期から忙しそうだし・・・。」 カップの縁をなぞりながら、思わず言ってしまう。 「・・・相馬、そうなの?」 「あ、ああ。伊集院先輩が留学するからな・・・。」 その言葉に、朝比奈が納得する。 「そうなんだ。じゃぁ、選挙か・・・。」 「なになに、生徒会、選挙すんの?! 相馬がそのまま会長やんねーの?」 黄瀬の言った言葉に、翼も思わず賛同してしまう。 「そーだよ!相馬が、やればいいじゃん。」 「いや・・・おまえら、簡単に言うけどな、オレがなっても代わりの人間入れないとだろ・・・。」 黄瀬と翼に言い聞かせる様に言う相馬の横でシレッと朝比奈が爆弾を落としていく。 「けど、生徒会長になったらメンバー指名できたよね?」 「・・・できるけど・・・。」 ゆっくりとカップに口付けた 「それなら、翼やりゃいーじゃん?」 「え?! オレ?? 無理無理。生徒会長とか・・・」 「いや、そっちじゃなくて。相馬の代わり。」 「あ、そっち?」 「あったり前だろ〜。相馬が会長で、翼も生徒会ならハルもオレも手伝える時は手伝うし!! そしたら、4人で遊ぶ時間作れるだろ?」 黄瀬が名案とばかりに言った言葉に、朝比奈と相馬は内心穏やかではなかった。

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