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花京院(9)
空気を切る音が暑さの残る中響く
この場所も、久々に来たな・・・。
夏休み中、相馬は部活に出てはいた様だけど、相馬の弓を見るのは・・あ、あの時以来か?
「・・・翼? そんなところに居ないで、中に入ったら?」
「う・・ん。」相変わらず、こっちが見えてるかな。
中に入ると、たしかに外よりは涼しく感じた。
薄らと、相馬の矢を引く腕が汗ばんでいるのが見える。
相変わらず、相馬の弓は綺麗。
「で、翼1人?」
「ああ、ウォルフは、さっき迎えが来たから。」
いつからか、用意されたのか相馬の斜め後ろ側に椅子が置かれていた。
そこが、ここでの自分の定位置。
「・・・、帰りは送るよ。」
リズム良く矢が放たれる
「調子がいいね。」
翼のそも言葉に一瞬、ドッキリした。
それが、矢の事だとすぐに解ったが・・・。やっぱり少し、浮かれているのかもしれない。
中心から少しずれてしまった矢を見て、口元が少し緩んでしまう。
「・・・相馬? どうかした?」
「もう少し、やってもいいかな?」
そういうと、嬉しそうにした気がしたするのは・・・気のせい・・・か?
初めてこの道場に来た時も、あの瞳を輝かせていた。
けれど、あの場面を見られた時はもうここに練習を見にも来てもらえないかと・・・
幼馴染だか、公爵だか知らないけど、あの男は邪魔だな。
シュッツ
「すごい!! 全部、真ん中!!」
「・・・シャワー浴びてくる。帰ろう。」
「じゃ、門の所で待ってるよ。」
「ああ、すぐ行く・・・」
「? 相馬・・・」
座っていた翼に、相馬の顔が近づく。額に、相馬の唇が触れる。
「!!」
「あいつの真似してみた。」
真っ赤になりながら、おでこを押さえてる翼を横目に更衣室に向かった。
その足取りは、だいぶ軽かった。
なのに・・・
さっきまでの気分とは今は真逆だ。
「相馬、明日からウォルフと2人で昼は食べるよ。」
迎えの車の中で、翼が相馬に言った言葉に、運転席の田中も密かに動揺した。
「けど、また・・・。」
「教室か・・・部室で食べるから大丈夫だよ。」
無意識に、翼を握っていた手に力が入る。
反射的に、翼が握り返す。
「差し出がましくて恐縮ですが・・・、よろしければ翼様達のお弁当の用意をさせていただけないでしょうか?」
バックミラー越しに、田中が翼に声をかけた。
「え? でも、迷惑じゃないですか?」
「そんな事はございません。」
ミラー越しに見える田中と目があう。
「・・・そしたら、お願いします。」
「ありがとうございます。それでは、明日 翼様の部室へお届けに参ります。」
「・・・え、あ・・・はい。ありがとうございます。」
・・・田中?どういうつもりだ・・・・?
ミラーを見る相馬に、田中がニッコリと微笑む。
バン!!!
荒々しく、机を蹴られる。テーブルが激しい音を立てて倒れる。それと同時に、何枚もの写真が散らばる。その音に、写真を持ってきたスーツの男は内心うんざりしつつも、顔には出さずドアの前で静かに立っていた。
「はぁ? 何それ!! なんで、あの子が王子と帰ってんだよ!! こいつなんか、ただのビッチだろ!!」
足で、写真を踏みつけながら、癇癪を起こしながら喚く。さながら、ミニゴリラが暴れてる様で、暴れれば暴れるほど立っている男の目は哀れなモノを見る様になっていたのだが、それすら気がついていなかった。
「あーーーー!!マジ、何なの!ほんと、こんなガキ! 早く、お父様も首縦に振れってんだよ!!そしたら、僕もロイヤルファミリーに入れるのに!! 」
ぐしゃぐしゃになった写真を見て満足したのか、傲慢な態度で男に部屋の片付けを命じバスルームへ向かった。
グシャグシャになった写真を拾い集め、写ってる子を見る。
「・・・仕えるなら、こんな子が良かったなぁ。」思わず、男が独言る。
花京院 薫は、一言で言ったら、馬鹿だ。
短絡的な考えで、今回の事もその考えから引き起こしているのだが・・・・。その周りの人間が幸か不幸か優秀だった。
「いや〜、今回はいい話だとは私も思っているんですよ・・・。ですが、うちの可愛い息子の事を考えると、もう少し時間が欲しいところなんですよね〜。」
ニヤニヤと、古狸が目の前の男を小馬鹿した様な態度を取る。
「私共も、花京院さんとは対等な関係でありたいと思ってますので・・・」
「対等? そちらさんとうちが、対等ですか〜。ほほぉ・・・」
ジロリと古狸の目が、男の隣にいる秘書を上から下まで舐める様に見てくる。
「・・・秘書が何か気になりますか?」
「いや〜、この話がまとまればそちらさんも、わしがお借りする事もできるのかねぇ。うちのもんは、その手の事には専門外でねぇ。」
ベロリ
舌舐めずりしながら、ニヤニヤと自分の腹を撫でながら何を想像しているのかは手に取る様に分かったが、顔には出さずにその日の顔合わせは終了した。
PPPPPP
激しい着信音が鳴り、画面を確認する事なく通話ボタンを押した
『オイ!!!!! ウォルフ・・・。あの狸本当に必要なのか?』
『何・・随分と、興奮してるね?』
『当たり前だ・・・・。私の前で、ニヤニヤとあのクソダヌキ!! いいか、ウォルフ。もし、あいつが私のモノに手を出す様なら・・・お前の頼みでも関係ないからな。』
『ああ、わかってるよ。』
通話を終え、ベットへ携帯をなげ着替え始める。
生徒会室での会話を思い出して、思わず壁を叩いてしまう。
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