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花京院(10)

「・・・ウォルフ? 今、すごい音したけど大丈夫か?」 コンコン 「ウォルフ?」 部屋のドアが勢いよく開けられる。 そのまま、ウォルフに抱きしめられる。 「・・・ウォルフ? 大丈夫なのか?」 背中をポンポンと叩くと、ウォルフの腕がさらに強く抱きしめてくる。 こうやって、抱きしめても嫌がらないくせに・・・。 なのに・・・。 「・・・つーくん、お腹すいて死にそう。」 「ああ、夕飯にしようか。」 ・・・僕のモノにならないなら、そんな笑顔なんてできなくなればいいのに。 次の日から、翼に対しての嫌がらせが酷くなっていった。 バシャ!! カランカラン・・・ 体育終わりに、非常階段近くを通ったら、まさか・・・頭上から水が降って来るとか・・・。 「つ、翼!!? 大丈夫!!!」 「・・・う、うん。 びっくりしたけど・・・。」 「つーくん!! タオル、使って。」 相馬とウォルフが慌てる。すぐに相馬が水が降って来た方へ視線を向けるが、そこには誰もいない。  「・・・、シャワー室で着替えて来たらいい。先生には伝えとくから。」 「そうする。 ウォルフも、先に教室戻ってて。」 「・・・わかった。」 ロッカーに入れてあった制服と、辛うじて下着が無事だったのは有難い。 今朝、学校に来ると下駄場にはゴミと一緒に『相馬から離れろ』のメッセージ付き。 さっきのも、きっと体育で相馬とペアを組んでいたからだろうな・・・。 シャワーのお湯が濡れた体に温かく感じ、ほっとした瞬間 シャワー室の電気が消され、お湯が水に切り替わる。 「ウワッ!! つめた!!」 マジかっよ・・・。  思わず、声を出してしまった。 その声に驚いたのか、走って行く足音が聞こえた。 その後すぐ、電気がつきシャワーはお湯に戻った。 はぁ・・・。 こんなにわかりやすく、嫌がらせをされているのに・・・、食堂で水をかけて来た先輩には、アリバイが常にあった。  先生達も、表立って犯人探しを手伝う事も、かばう事も出来なかった。 授業中は流石に嫌がらせを受ける事が無かった。 そのせいか、相馬とウォルフが翼の側から余計に授業中は離れなかった。 そうすると、移動中に水が頭上から降って来るのが、ここ最近のパターンになっていた。 おかげで、常に着替えを持ってくる羽目に・・・。 パンツまで一回濡れた時は、抱きついてこようとするウォルフを静止するのに神経を使った。 ってか、コレいつまで続くんだろ? 今日も、田中さんが部室にお弁当を持って来てくれていると部長から連絡をもらい、飲み物を買いにいったウォルフを部長と待っていた。 相馬から離れろ。か・・・。何度となく、入れられていたメッセージ。 この犯人は、相馬が好きなら頑張ればいいのに。 「佐々木くん、最近はどう? いまだに・・・?」 「ですねぇ・・。水の次は泥とかになったんですよ・・・。マジ、泥汚れって落ちないから厭なんですよね。」 「・・・そういう、問題?」 「結構重要な、問題ですね。泥ですよ? 泥、染みになるし・・・。」 「なんか、結構平気そうだね? やっぱ、青桐君が何とかしてくれるから?」 ガラッ 部室のドアが開けられる。 「・・・誰が、何とかしてくれるって?」 中に入ってくるウォルフに、部長は話すのをやめ、部室からすぐに出ていった。 「・・・別に、君には関係ない事だよ。 じゃ、佐々木君ごゆっくり。」 「部長、ありがとうございます。」 ドアが閉められ、部室にウォルフと2人になる。 田中さんの用意してくれた弁当をあける。 「うわ!! 今日も豪華・・・。こんなんじゃ、オレ太りそう。」 「つーくんは、もう少し肉ついた方がいいと思うよ。抱き心地悪い。」 紙皿に、取り分けてあげながらウォルフに反論する。 「抱き心地って、それなら女の子にハグしてろよ。お前は王位継ぐかもなんだろ?」 「・・・継がない。」 「・・・そう? 王子とか似合いそうだけど?」 「そしたら、つーくんがお姫様になってくれる?」 「はぁ? 何、気持ち悪いこと言ってんの? オレ、男だよ?」 「・・・男でも、この世界は関係ないの知ってるでしょ。誠の居た所とは違うんだよ?」 食べていた手を止め、まっすぐに翼を見る。 翼も、同じ様にウォルフを見る。 「ウォルフ・・・、それでも、オレはお前の姫には成れない。」 「何で? 僕が、攻略対象じゃないから?」 いつもの様に茶化すでもない、真剣な顔でウォルフが翼を見る。 何度となく、ウォルフに聞かれる度にそれを理由にはっきりと言った事はなかったかもしれない・・・。 けれど・・・そもそも、ウォルフは・・・。 いや、それも言い訳になるか。 「・・・ウォルフ、攻略対象とか、対象じゃないとかじゃないんだ。 オレは、相馬が、相馬だから好きなんだよ。確かに、前世の思いもあるかも知れないけど、それでもオレは相馬が良いんだ。」

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