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生徒会室(2)

伊集院が去り際に言った言葉に先に反応したのは、朝比奈だった。 「ふーん。 やっぱ、やることにしたんだ。」 ニヤニヤしながら相馬の頬を突っついたりしていた。 「ちょ・・・ハル、やめろ。 その事で、お前に相談がある。」 突っついていたハルの手を掴み、正面から向き合う。 「え・・・そ、相馬?」 真剣な顔で見つめられ、ドキドキしてしまう。 真横で見ている黄瀬と翼も2人の空気に変な緊張感を感じる。 ・・・やっぱり、この2人って絵になるなぁ・・・。 ズキンッ 胸が痛む。 「・・・ハル、お前にも生徒会に入って欲しい。」 !! それって・・・。 目の前で、ハルに相馬が生徒会へスカウトした。それは、シナリオの分岐・・・ ハルを見ていた相馬が今度は、翼の手を取る。 「もちろん、翼も側で手伝ってくれるよな。」 「え・・、ああ。もちろん。」 これは、どういう事だろ・・・? やっぱり、シナリオとは違う?? 「って、事は・・・翼も、生徒会に入るのか?」 黄瀬が思わず、口を挟んだ。 その言葉に、朝比奈が咄嗟に答えていた。 「え! 僕、面倒なの嫌だんだけど!」 「「え!」」 相馬と翼の声がハモる。 「えって・・・、相馬も、翼も僕がやると思ったの?」 「だって・・・ハルは・・・。」 ぐぅぅぅ 翼のお腹がなる。 「・・・とりあえず、お昼にしようか」 田中の用意した弁当を机に広げ、話の続きをはじめる。 「そもそも、僕は生徒会に興味ないし。相馬と翼くんの手伝いはしてあげてもいいけど・・・、正式なメンバーとかは面倒なんだけど。」 「まぁ・・・、ハルならそう言うと思ってたけどな。」 豪華な弁当を取り分けながら相馬も気にしない様子だった。 「けど、相馬、生徒会長引き受けたんだな。」 黄瀬も、気になったことを相馬に聞いた。 「ああ、翼が生徒会に入るなら知ってる人間が会長の方がいいだろ?」 「・・・確かに。選挙になると大変だもんな。」 納得したように黄瀬がうなずく。 「ん? そしたら、相馬の作ってた資料は無駄になるんじゃないのか?」 「いや、別に無駄にはならないよ。 引き継ぎ書だし。」 翼に笑顔で答える相馬を横目に、黄瀬と朝比奈は何か言いたげな顔をしていたが相馬はそれを無視した。 「そうだ! 忘れるとこだった。これ・・・3人に渡しとく。」 黄瀬がポケットから、チケットを三枚取り出して渡してきた。 「・・・何これ?」 「ああ、来月うちのクラブがチャリティー試合をスタジアムでやるんだけどさ、プロとの試合だから結構盛り上がるんだ。よかったら観にきてよ。」 「ああ、もうそんな時期か。うちもまた、寄付させてもらうよ。」 チケットを見て、翼の顔色が悪くなる。 「・・・翼くん?」 「あ、うん。 なんでもない。楽しみだ。ハルも出るの?」 「ああ!! オレも、今回出させてもらえるんだ!!!」 「・・・そっか。楽しみだな!!」 翼のチケットを持ってる手が微かに震えていた。 「・・・翼くん?」 「ハルも楽しみだな。」 翼がそう言って笑った。 それ以上は、朝比奈も何も言えなかった。 さっき、翼くんのチケットを持つ手が震えていた・・・。 こないだ、彼はリョウの足が試合中に動かなくなる夢を見ると言っていたけど・・・ まさか? そう思ったら、放課後翼が教室から出てくるのを待っていた。 「つ、翼くん。今日、良かったらお茶しないかな?」 「は、ハル?」 「それか・・・、翼くんのお家に行ってもいい?」 朝比奈の手が翼の腕を掴んで離さない。 「・・・どっちでもいいけど、先に病院に行ってもいいかな?」 「病院・・・? あ、ああ、彼の?」 翼が頷くと、黒服の男が声をかけてくる。 「翼様、お迎えに参りました。」 「友達も一緒に、いいかな?」 「ええ、御坊ちゃまもお喜びになると思います。」 「・・・ハル、行こうか。」 無意識に、朝比奈は掴んでいた手に力が入っていた。 その手を握り直し、黒服の男について行った。

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