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ハルと翼

ふぅ・・・。 部屋で、着替えながら少し冷静になる。 翼が入れてくれたお茶をに見ながら、朝比奈は病室でウォルフに言われた事を思い出していた。 あいつ・・・、足の事どこまで・・いや、翼くんもきっと知ってる。 だから、生徒会の話を出してきたのかなぁ・・・。 はぁ・・・ 朝比奈から、ため息が漏れる。 部屋着に着替えた翼が、声をかけるとお得意の笑顔を見せた。 「お待たせ。 良かったら、夕飯でも食べて行かないか?」 「え? いや、悪いよ!!」 「むしろ、相馬のところに貰った肉がありすぎるから、食べて行ってくれるとありがたいんだけど・・・。」 そう言って、冷蔵庫の中の肉の塊を見せると、朝比奈も最初は断っていたが最後はうなずいていた。 夕食は、ホットプレートで焼き肉にする事にした。 ダイニングテーブルで、ホットプレートを挟みながら、どことなく緊張しながら翼から話始めた。 「・・・さっきの話なんだけど・・・・。」 「うん。生徒会の事だよね。」 朝比奈にそう言われ、小さく頷くと持っていた箸を置いた。 その様子に、朝比奈も自分の箸を置いて、翼と向き合った。 「・・・ハル。オレが前に言った事覚えている?」 「・・確か、予知夢とかだっけ? 伊集院先輩の事とかもそれでみたんだろ? んで、今回はリョウの怪我だろ?」 目の前の肉が、熱で温められていく。 「・・・その事で、僕は朝比奈に話してない事があるんだ・・・。」 「・・・翼くん?」 口調が、変わった?  翼の雰囲気が少し変わった事に、朝比奈は突っ込む事なく静かに話を聞いていた。 「僕の言うことが信じられなくても良いけど・・・、出来たら僕は朝比奈にも陸上を諦めて欲しく無いんだ・・・。」 翼の話は、朝比奈には理解ができなかった。 けれど、その事が嘘では無い事を嫌という程、理解もしていた。 あーあ、みんなには知られたくなかったんだけどなぁ・・・。 それでも目の前で、自分よりも辛そうに話す翼の姿を見てるとそうも言えなかった。 目の前の肉はもう真っ黒に焦げていた。 「・・・いつから気がついてた?」 朝比奈が焦げた肉をホットプレートから避け、新しい肉を置いた。 「僕じゃ無いよ。」 「あぁ。そっか、それじゃあ誤魔化しようが無いか。」 翼も、朝比奈も焼けた肉をタレにつけて食べていく。 「・・・ホットプレートの焼き肉も良いね。少し・・・、僕の話しても良いかな?」 ぽつりぽつりと朝比奈が話始めた。 ウォルフに、朝比奈の事を聞いた時は、嘘だと思いたかった。 けれど、それは嘘でも夢でもなかった。 高等部に上がる頃から、少し膝に違和感はあった。 遅めの成長痛か、練習の疲れだと思ってテーピングをしたら、痛みは治った。 成績も維持できていた。あの日、練習中急に動かなくなった・・・。 病院に行った時には、もう手術するしかないと言われてしまった。 「けど、リハビリしたらまた走れる。」 翼がそう言うと、朝比奈は残念そうな顔で答えた。 「翼くん、僕ね。卒業後は芸能一本でやる事が決まってるんだ。」 そんな・・・? 相馬ルートでも、黄瀬ルートでも無いのか? 朝比奈が芸能界に進むなんて・・・、そのシナリオにも無かったはずなのに・・・。 「そ、それは、本当に朝比奈がやりたい事・・・?」 「それは、あまり重要じゃ無いんだ。決まってる事だから・・・。」 「・・・なら、手術するべきだよ。」 「リハビリして、また走れる様になるのに最低でも1年。このまま、騙し騙しやっても一年。それなら、僕は今、走れる方がいいんだ。」 朝比奈は、いつもの笑顔をしているつもりだった。 けれど、その顔は痛みを我慢している様に翼には見えた。

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