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翼とリョウ
その日以降、相馬と朝比奈が一緒にいる姿が学園内で頻繁に見られる様になった。
元々、中等部で朝比奈は相馬と生徒会をやっていた事もあり、2人の息はぴったりだった。
「あれ? 翼、今日は部活?」
ロードワーク中の黄瀬が、カメラを片手にジャージ姿の翼に声をかけた。
そまま、走っていた足を止めて翼に横に来る。
「半々かな? チャリティーの取材も兼ねて、良い写真撮れたら、生徒会の広報としても使うし。」
スタジアムでの、チャリティー試合に黄瀬や、サッカー部から何人か当日出場する事から学園側も、チャリティーに賛同する形で生徒会が学生選手のサポートをする事に急遽なったのだ。
今日は、練習風景などの撮影で翼は、サッカー部の練習写真を撮っていた。
撮った写真は、生徒会の活動内容として広報に使ったり、良い写真が撮れたら新聞部のブロマイドとして使用される事になっていた。まぁ・・・その辺りは、部長と生徒会長達が色々話し合ったみたいだけど。
隣にきた、黄瀬にカメラを向け1枚
「なるほどね。 ってか、今日もお前1人?」
撮ったデーターを確認しながら、黄瀬の問いに答える。
「ああ、相馬とハルは今予算の事で伊集院先輩と引き継ぎ。」
不意に翼の頭上が影になる。
顔を上げると、黄瀬がカメラを覗き込んでいた。
「1人で寂しいかもしれないけど、オレのカッコいい写真撮らしてやるし頑張れ。」
翼の頭を撫でながら、ニヤリと笑う。
その手を払いながら、翼も黄瀬の頭をわしゃわしゃっとし返す。
「うっさいな〜。別に寂しくないっての〜!!」
黄瀬とのやり取りは、気が楽でつい翼もやり返してしまう。
今日も、いつもの様に何か考えていた訳でもなく、巫山戯ただけだったのに・・・
急に、真剣な顔で黄瀬に手を掴まれる。
「それ、本心か?」
「えっ・・・リョウ?どうかしたのか?」
「あ・・・いや・・・。別に、ただ本当に寂しくないのかと思って・・・」
「ん〜、寂しいというか・・・。もっと頑張らないと!って気にはなるかな?」
「・・・・」
「あの2人って、幼なじみだし。ハルも相馬もお互いの事わかってる所があるから、話さなくても通じてる部分もあってさ・・・。だけど、それを羨ましがっても仕方ない!過去には戻れないしな。 だから、オレは今できる事をして、2人の手伝いができる様になりたいかな。」
翼の瞳がキラキラと陽の光を反射して輝いて見える。
黄瀬はその光を眩しそうに目を細めてしまう。
「翼は、強いんだな。」
「・・・そう? そんな事はないと思うけど?」
「そうだよ。」
そう言って、黄瀬はまた翼の頭をワシャワシャ撫で回した。
「ちょっ! また、髪ぐしゃぐしゃになるだろ〜!」
「あはは! 隙だらけなのが悪いんだろ? っと、そろそろ練習戻るかな。」
「おー。 さっさと戻れよ。 オレも、もう今日は暗くなるし写真は終わりにするわ。」
「んじゃ・・・!」
そう、黄瀬が走り出し瞬間・・・
膝からバランスを崩して、黄瀬がよろけた。
「!! リョウ!!」
黄瀬の側に駆け寄って、体を支え様とするが、大丈夫と片手で止められた。
「っと・・。ちょっと、滑っただけだよ。」
「気をつけろよ! 試合前なんだから・・・。」
「あぁ、気をつけるよ。」
じゃ・・・。 そう、走って行った背中をただただ、見送るしか翼はなかった。
三階の校舎から、グラウンドの外が見えた。
2人が何をしているか、なんて細い事はここからは分からない。
けれど、何かをしているのは分かった。
「おい、今の話ちゃんと、聞いてたのか?」
窓の外をずっと相馬は見ていた。
「ちょっと、相馬さっきから・・・ちゃんと聞いておけよ!」
「・・・ああ、大丈夫だ。それに、ハルもいるしな。」
そう言って、視線を一度向けたがまたすぐに、窓の外へ戻した。
それに釣られて、2人も窓の外へと視線をやった
「あっそ。それなら良いけど・・・。って、ほんと彼らって子犬みたいだね。」
視線の先の人物達を見て、思わず口から出てた。
その言葉の何が勘に触ったのか・・・、ムスッとした顔で相馬は2人を見ていた。
全く。これじゃ・・・先が思いやられるな。
そんなに、他に懐かれるのが嫌なら彼じゃなく、あの子を側に置けば良いのに・・・っと。これはこれは・・・。ここからじゃ、何があったか分からないけど・・・。
あの2人の距離が一瞬重なった様に見えた。
っと・・・、あの子の事だから何でも無いんだろうけど。そう思いながら、窓の外を凝視していた相馬を見ると・・・その横で、同じ様に複雑そうな顔をした朝比奈を伊集院は見てしまった。
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