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黄瀬

「ハル?どうかしたか?」 「え・・・あぁ、なんでも無い。」 心配そうに顔を相馬が覗き混んでいた。 本当、こいつの顔って整ってんだよな。目の前の男の顔をマジマジと見る。 幼い時から、顔だけは整った人間は沢山周りにいた。その中でも相馬は別格だった。けれど、それが万人受けするかと言ったらそうでは無いのを知っていた。相馬は、よく言えば手の掛からない子ども。悪く言えば、面白みの無い奴だった。  それが、今じゃ・・・。 グイっつ スッと筋の通った形の良い鼻を摘む。 「オレ、そういやって顔見られんの嫌だって言ってんだろ。」 「ちょ・・、ハル! 痛いって。」 「うっさいな〜、さっさと行くぞ!」 「はいはい。」 すでに先に行ってしまった伊集院の後を追う様に、生徒会室へ2人も急いだ。 「・・・!!」 ロードワークを終え、教室に忘れていたタオルを取りに来ていた黄瀬が、2人が急ぎ足で生徒会室に向かっていくのを、柱の影で隠れて見ていた。 い、今・・・、あの2人・・・。 まさか? けど・・・。 あの2人の事を中等部で知らない生徒はいなかった。 学園の生徒の半数は、青桐家に関わりのある企業や、家柄でオレの親も仕事で関わりがあった。 だから、その次期後継者が同じ学園にいたら嫌でも、入学当時から気になった。 成績の優秀な青桐と同じクラスになる事は一度も無かったが、色々な噂は耳にしていた。 その中でも、朝比奈ハルとの事は中等部では公然の秘密とされていた。 当人達は、否定も肯定もしないが、授業以外は2人でいた。 公然ではあるが秘密とされている事を良い事に、果敢にもアタックする生徒が卒業間近になると増えた。だが、その度に2人が一緒に告白の場に現れるのだ。 だから、オレもあの2人は付き合っているんだとずっと、思っていた。 朝比奈ハルは、ジュニアモデルで子役でもあったが、サッカーバカなオレはあまり活躍している姿を知らなかった。チームメイトやクラスの子が話していた話題や持っていた雑誌で彼が「シュガーエンジェル」といわれていたり、あの2人が「王子と姫」と呼ばれている事はなんとなく知っていた。 それでも、自分には関係の無い2人だと思っていた。 程なくして、朝比奈をグラウンドで見かけるようになった。 あの華奢な体で、トラックを駆ける姿はネコ科の動物の様にしなやかで綺麗だった。 それ以来、グラウンドで陸上部が練習をしている時はどんなに疲れていても、遠回りでも横を通る様にして、その姿を盗み見る様になった。 まぁ・・・、チームメイトの中に何人かハルのファンもいたから、必然とそのルートを遠って部室に戻ったりしてたんだけど。 そんな2人と、高等部のクラス発表の時翼に声をかけた事をきっかけに、初めて話した時オレは、ハルに思わず公然の秘密の事を口にしていた。 あまりにも相馬の印象と、ハルの印象が違いすぎて思わずハルには妹達にする様な態度で接してしまい。その事に気がついた時には、つい口から出ていた。 「・・・って、彼氏に悪いか」 「はぁ? 彼氏って誰がだよ。」 「あれ? 違うのか??? 」 「何?相馬の事、言ってんの?」 「それ以外にいるのか?」 思わず・・・。本当に、思わず口にしていた。 嬉しい様な・・・もしかしたら、他にいるんじゃないかという、なんとも言えない気持ちが胸に染みを作ったが、それもすぐにハルに掻き消された。 「はぁ?!! そんなの居るかよ。」 シュガーエンジェルと言われる様な可愛らしい顔から、出てくる言葉使いがあまりにも粗雑でそのギャップにオレは楽しくなっていた。 一度、素の状態を見せてしまったからなのか、それからハルは2人でいる時は素の状態で話す事も増えていた。 それが、自分にも心を許してくれているのかと嬉しくなったのだけど・・・ 2人の顔が重なりあってたのを見てしまい、今酷く感情が自分でもコントロールできなくなっていた。相馬の普段の様子だと、アイツは翼に激しい執着があると思ったのに・・・。 なんで? 思い出されるのは、絵になる2人の姿。 完璧な相馬の隣に並んでも、遜色の無いハルの姿。 翼の事は応援したいと心から思うし、相馬も翼に何かしらの気持ちはあると思っているけど・・。 実際に、2人の絵になる姿を見てしまうとそんな事は全て意味が無い様にも思えた。 ハルも態度も相馬に対しては、壁が無い。相馬も、翼とハルでは態度が違う・・・。 そんな絵になるお似合いの2人。 オレは、翼みたいにこの2人を側で見続ける勇気も意気地は無い。 そのまま、2人に声をかける事ないまま、2人とは反対の廊下を教室に向かって黄瀬は走り出していた。 その日から、黄瀬は翼達3人とお昼を「練習がある」と言って断る様になった。

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