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黄瀬(2)

いつもの様にロードワークに出ようとした時に、カメラを持った翼がいた。 「今日も、撮影?」 「そうだよ。リョウも相当気合入ってるんだろ?昼も練習してる位なんだし。」 「わり〜、やっぱプロとの試合とかって滅多に出来ないからさ・・・。」 「・・・そっか。あんま無理して、試合前に怪我すんなよ?」 「おう!! けど、心配無用だぜ? オレ、出来る子なんで。」 「はいはい・・・。こないだよろけてたくせに。」 「あぁ〜、信用してないなぁ〜。」  戯けてやれやれと肩を竦める黄瀬に、それまで真面目な顔して翼はいたが、思わず笑ってしまう。その顔に、リョウの胸がキュッと締め付けられた。 ・・・翼は、何も知らないんだよな。 なのに、あの2人の姿を見たくないからって、翼の事まで避ける様な態度をつい取ってしまっていた。 だからこうして、撮影のフリをして翼がここに居る事を黄瀬は気がついていた。 走り出そうと一歩足を踏み出した瞬間にバランスを崩す。 「うわっ・・・。悪い」 咄嗟に、翼がリョウの体を支える。 「はぁ・・・どこが、大丈夫だよ。・・・足、出して。」 「いや・・・って、うわっ」 無理やり、フェンス近くに黄瀬を座らせる。 ポケットから出したテープで、翼が手際良く黄瀬の足を固定していく。 「ほら・・・これで、多少は動けるから。」 「翼、すげーな、テーピングできるんだ。」 「まぁ・・・。」言えないよなぁ・・・。黄瀬の怪我するから覚えたとか・・・。 「・・・なぁ、翼はあの2人見てなんとも思わないのか・・・?」 「・・・なんともって?」 いつの間にか靴が脱がされ、翼の膝に足を乗せられていた。 足首を少し動かされ、そのまま足首も固定し始める。 翼の手元をじっと見ながら、黄瀬は話を続けた。 「前に、相馬とハルがお似合いだとか言ってたじゃん・・・・。」 「あぁ・・・あったね。今も、あの2人って絵になると思うよ。」 テーピングを終え、靴を履かせる。 「けど、絵になるからって自分の気持ちは自分のものだしね。」 「翼・・・。」 「足どう?」 そういわれリョウは、その場で屈伸したり歩いてみる。 「ああ、ありがとう。」 「翼、オレさ・・・好きなんだわ。」 いつもの人懐っこい笑顔では無く、少し辛そうな顔で笑った黄瀬に、翼は言葉がでなかった。 「・・・それは。」 ガサッツ 「! だ、誰?」 物音にびっくりして、翼が声をかけるとフェンスの裏から、猫が出てきた。 にゃーん はぁ・・・はぁ 息が切れるほど、全速力であの場から逃げてしまった。 最近、リョウの様子が変だったのは気がついていた。 今日も、翼君がカメラを持ってグラウンドの方へ行ったのが見えたから、思わずあとをついて行ってしまったのだけど・・・ リョウが、翼君を好き? 聞こえてきたリョウの言葉ははっきりと、「好き」と聞こえた。 信じたく無くて、その場から逃げる様に走って行ってしまった。 けれど・・・、そっか・・・。 そういう事なら・・・、僕も・・・・ふふふ・・・。 思わず、笑いがこみ上げてくる。 リョウは翼君が好き・・・ね。 それなら、翼君がいなくなったらいいんだ。 ポケットから、携帯電話を取りだし履歴から発信をする。 「僕だけど・・・。」 天使の様だと言われる朝比奈の笑顔はまるで悪魔の様だった。

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