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病室(3)

それからしばらくして、病室に翼が顔を出した。 手土産に持ってきたプリンを翼とウォルフに出すと、今度はウォルフも翼と話ながら、残さず食べていた。 「もう退院できるんだろ?」 「ああ。あとはメディカルチェックだけかな。」 「そっか! そしたら、退院の日は咲紀も呼んでご飯でも食べよう。」 「いいね。楽しみにしてる。」 「それじゃ、オレ帰るから。」 「それなら、今車を・・・」 「あ、今日は大丈夫。下で、田中さんが待っててくれてるから。」 「・・・そう。それなら、安心だね。また、明日待ってる。」 手を振って病室を出て行く翼を見送る。 ベットから、降りて窓の外を見ると、一台の車に乗って行く姿が見えた。 後部座席のドアを中から出てきた人物が、わざわざ翼の為に開けていた。 ・・・本当、早く僕のものになればいいのに・・・。 ウォルフの顔が醜く歪む 「相馬、お待たせ!」 「もう、お見舞いはいいのか?」 後部座席のドアを開けて、翼を中に乗せる。 「ああ。怪我自体はもう治ってるし、顔見せに行くだけだから。」 「そうなんだ。ドア閉めるね。」 そう言って、相馬は上の方を見上げる。 窓際に立っていた人物を目があった様な気がしたが、相馬も翼の隣に乗り込んだ。 「翼さん、宜しかったら、この後うちに夕飯食べにいらっしゃいませんか?」 バックミラー越しに田中が声をかけてきた。 「あ、ありがとうございます。けど、頂いたお肉が冷蔵庫を占拠してるので・・・。」 「・・・相馬様、少し寄り道しても宜しいでしょうか?」 「あ、ああ。構わないが?」 「それでは、本日のディナーは翼様のご自宅でご用意させて頂きます。」 「ええ??!!」 そう言って、田中は高級スーパーに車を走らせた。 ♢♢♢ 「あ、そちらの人参はこちらの鍋にお願いいたします。」 マイエプロンを付けた田中が翼に指示を出していた。 夏休みの間、同じ様に2人でキッチンに並んでいたのを思い出す。 その様子を、相馬がダイニングから見ていた。 「なんか、2人とも楽しそう。」 「相馬様、もうしばらくお持ちくださいませ。」 「相馬、良かったら皿出して貰ってもいい?」 「ああ! オレも手伝う!」 翼に、声をかけて貰えて嬉しそうに相馬は食器棚の前へ移動した。 「その二番目の皿と、カトラリーをテーブルに頼んだ。」 「わかった。これだな?」 翼に確認しながら、相馬はテーブルにカトラリーを運んだ。 出してもらった皿に翼と田中は料理を盛り付けた。 「田中さんも今日は一緒に食べて下さいね。」 「ええ、本日はお言葉に甘えさせて頂きたいと思います。」 「良かった。 いつも、気になってたんですよ。作ってもらうだけとか・・・。」 困ったように微笑む田中に、相馬が口を挟んだ。 「あんまり、田中を困らせるなよ。 今日は、一緒に食べるんだからさ。」 「そしたら、ここで食事を作る時はぜひ、一緒に食べてください。」 「・・・宜しいのでしょうか?」 ちらりと、相馬の方を伺い見ると、相馬少し驚いた顔で田中の方を見ていた。 「相馬? またうちに来るだろ?」 「あ、ああ。もちろん。そしたら、田中の手が空いてる時はそうしよう。」 「かしこまりました。」 田中と、相馬の2人はニッコリと翼に微笑んだ。

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