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クッソ!!! あのクソガキ!!!年下の癖に生意気なんだよ!!! 家に戻るなり、自室のベットにカバンを投げると、茶色の小瓶が出てきた。 「・・・・。」 小瓶を手に取ると、蛍光灯の下に翳しながらベットに横たわった。 病室で自分が体験してした事を思い出した。 数滴で、数時間。 解毒剤は渡されて無い。 翼君を試合に行かせたく無いから、僕はこれを使う事に異論はないけど・・・ アイツはなんで、翼君にこんなものを飲ませてまで試合に行かせたくないんだろう? 無意識に、朝比奈は自分の足を撫でていた。 足の異変に気がついた時はもう、手術をするしかないところまで進んでいた。 最初は、テーピングでごまかしたり、サポーターをしていたりしたが、今では1キロも走ると膝が動かなくなっていた。  けれど、手術しリハビリをすれば選手としてまた陸上ができると言われた。 でも、手術をしなくても日常生活をするくらいなら問題はなかった。 それに、自分のために習ったテーピングのお陰で、リョウとの距離を縮める事ができたと思った。 夏のあの試合の前、リョウが怪我の事で珍しくナーバスになっていた。 「リョウ? こんな所で、珍しいじゃん。」 トレーニングウェアをいつも着ている黄瀬が、珍しく制服を着て図書室にいた。 偶然を装い、黄瀬の隣に朝比奈が立った。 「あ・・・ハル・・。」 咄嗟に、読んでいた本を隠そうとしたが、思わず落としてしまう。 その本を、朝比奈が拾おうとすうると朝比奈が慌てて屈もうとするが、その場でよろけてしまう。 「何読んでた・・・。リョウ・・・お前。」 慌てて肩を貸して立たせると、落とした本のタイトルが目に入った 「・・・足でも怪我したのか? こんなテーピングの本なんか見てて・・・。」 「い、いや・・・ちょっと、今のはバランス崩しただけだし・・・。これは、明日の試合に備えて何かないかな?って思っただけで・・・。」 視線を泳がせながら、しどろもどろに言い訳をする姿に、朝比奈はピンと来て黄瀬のズボンをめくった。 「なんだこれ?!」 思わず、大きな声で叫んで仕舞い、一斉に周りの視線を集めてしまう。 し!!! 黄瀬に、口に指を当てられ、静かに図書室から2人は出て行った。 外に出ると、朝比奈は黄瀬に詰め寄っていた。 「お前、これ自分でやったのか?!」 「まぁ・・・。 見様見真似で・・・。けど、すぐ取れちゃって・・・。」 「ってか、そんな付け方じゃ、意味ないから・・・。ってか、保健室行くぞ。」 そう言って、黄瀬の腕を掴んで保健室へ連れて行こうとするが、黄瀬がそれを拒否した。 「保健室はダメだ。明日の試合に出れなくなる。」 「いや、お前そんな事を言ってる場合じゃないだろ?」 「少し、ひねったくらいでチームに迷惑かけたくないんだ。」 「・・・リョウ・・・。」 さっき、見た状態を思い出す。 少しであんな巻き方・・・、いや・・・だから本を探しに? 「お前も、陸上やってるからオレの気持ち、わかるだろ? 明日の試合には出ないとダメなんだよ。 先輩達の最後の夏なんだ・・・。」 「・・けど、そんな足で試合に出て負けても、先輩たちだって・・・。」 「いや・・・オレが出ないとダメなんだ。 うち、クラブチームに入ってるヤツもいて、明日の試合とかぶってて、人数の替えが今からじゃ出来なくて。」 「で、でも・・・」 「それに、オレも先輩達と試合がしたいんだ。」 「・・・リョウ。」 真剣な顔で言う黄瀬に、朝比奈も何かを覚悟した。 「リョウ、うちに行くぞ。」 「え?」 朝比奈はそう言って、携帯で車を手配すると黄瀬を連れて行った。

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