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ケーキにこめた想い

 連れてこられたのは大学内にあるカフェだった。  この大学には調理科があって、そこの学生が考えた料理やケーキをここで提供してる……らしい。詳しくは知らないけどここのケーキは美味いし、よく利用していた。  側から見れば男と女が2人でカフェ……まるでデートしてるように見えるだろう。でも目の前にいるのは男だ。  2人がけのテーブルに座り、相手は男の声で喋りだした。 「まず、俺の名前を言うのを忘れてた」 「今さらかよ」 「告白して、まずは自己紹介をしようと思ってたんだけど気持ちがはやって……人を本気で好きになったら自分の気持ちを制御するのは難しいんだね。君を怖がらせないように心がけるよ」 「いやもう十分怖いんだけど……」 「とりあえず自己紹介だ。俺は髙月玲依(れい)。君と同じ2年」  へえ……と素っ気なく返事をしたが、そんな俺に構わず男はにこにこと見つめてくる。  視線と微妙な間をどうにかしたくて1番の疑問をぶつけた。 「あのさ……昨日言ったからもうハッキリと言わせてもらう。俺は優しくない。他人に好かれておいたら面倒事に巻き込まれない……そのための振る舞いだ。相手の顔色を伺って会話してる。だから他人の見ている俺は作られた俺なんだよ」  だから恋心は面倒なんだ。よく知りもしないのに相手を好きになって、嫌な面を知れば冷めていく。 「他人は信じられないから深く干渉しないし、おもしろいことも言えないから俺と会話してもつまらない。素の俺といても楽しくない」  だから……異性に恋心を持たれないように接してきたのに……男に好かれるなんて想定外だ。 「なのに……髙月はどうして俺のこと……」 「髙月、じゃなくて玲依って呼んでほしいな?」  少し上目使いになっておねだりするように言われた。本心を話したのに、呼び名を指摘されて拍子抜けだ。 「……別に名字でいいだろ!」 「名字だと区別つかないからなあ……あと名前呼んでくれたほうがアガるし……」  区別?何のことだ?  ……と、言おうとしたが相手の声に阻まれた。 「名字で呼んだらお仕置きにキスとか?」 「げっ……!」 「ほらほら、髙月って呼んでいいよ? ふふふ」  相手は頬杖をついて目を細くした。  こんなところでキスされたらたまったもんじゃない! 「わかったわかった!!玲依!!これでいいだろ!!」  玲依、と名前を口にした途端に目の前の男は顔をおおった。 「めっちゃかわいい……」 「だからなんでそうなるんだよ!!!」  そんな会話を繰り広げていると、目の前に美味しそうなケーキが運ばれてきた。 「ん!? まだ注文してないのに!?」 「私が頼んでおいたよ! 尾瀬くんに食べてほしいケーキがあるんだよね」  店員が近くにいるからか、玲依は女声で話す。  苺や果物がたくさん飾りつけられているタルトだった。昼飯にケーキ……とも思ったが、食べずに帰るのはケーキにも……こいつにも申し訳ない。 「きっと君の好きな味だから。食べてみて」  なんでこいつは自信満々なんだ……と思いながらケーキを口に運ぶ。 「ん! 美味い!」  本当に俺の好みの味だ。今まで食べたケーキの中でもいちばん好きかもしれない。 「そう言ってくれると思った」  ケーキを食べる俺を眺めて、玲依は何故か誇らしげに笑っている。 「実はこのケーキ……というかこのカフェで提供してるケーキはほとんど俺が考案したものなんだ」 「えっ……はぁ!?」 「最初に言っただろう? 一目惚れだって。俺のケーキを美味しそうに食べる君を見て、好きになったんだ」

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