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これこそ一目惚れ
玲依はそのまま話しはじめた。
「俺はその調理科なんだ。ここのカフェのメニューが調理科の考えたものだってことは知ってる?」
「……まあなんとなくは」
「1ヶ月に1回、このカフェのメニューを決める審査会があって、そこで選ばれたら晴れてメニューに正式採用されるってわけだ。まあそうなるとメニューだけが増えていって収集がつかなくなるから売り上げの低いものは販売されなくなる」
「ん? さっきお前、ここのケーキはほとんど俺が考えたもの……って」
「そう、俺のケーキは美味しいからね。売り上げは爆上げ。だから他のケーキが売れなくなってほとんど俺のしか残ってないんだよ」
自信満々に言っていた玲依だったが、次第に声のトーンが下がってきた。
「でも2ヶ月くらい前、俺は新作のケーキ作りに行き詰まっていた。気分転換も兼ねてたまには客が俺のケーキを食べているところを見てみようと思ったんだ。それまでは自分のケーキに自信を持っていたし、感想なんて気にならなかった」
「ある日、店員に言ってカフェの1席を貸してもらって、そこで客の様子を見ながら新作を考えていた……そんなとき、君に出会った」
真剣に話していた顔を上げ、にこりと目を合わせてきた。
「ちょうど俺がカフェに来てお前のケーキを頼んだってことか?」
「そう、その通りだ。君は心から美味しそうにケーキを食べてくれた。目が離せなかった。他人に対しては仮面をつけていても、食べ物の前で仮面をつける人はいない。あれが君の本心だろう? 由宇、君のことをもっと知りたくなった」
真っ直ぐな言葉に胸がざわついた。ずっと距離をとっていたのに……こんなに他人に心を近づけられたことはあったか?
わからないけど、モヤモヤしてもどかしい。
「行き詰まっていたけど君のため、君の喜んでくれるケーキを作ることに決めたんだ。このケーキが完成したら君に想いを伝えようと思って頑張った」
そう言われ、再びケーキに視線を落とす。
俺のために作ったケーキ……
ケーキ作りのことはよくわからないが、きっと苦労して作られたものなんだろう。このケーキは本当に美味しい。
目の前の相手が変な男だとわかっていても、相手が俺を想う気持ちに偽りはないんだと、このケーキを見て思った。
「……ありがとう。本当に美味しいよ、このケーキ」
こいつの前では取り繕っても意味ないだろうから正直に伝えた。
玲依は一瞬驚いた顔をし、またすぐに笑顔に戻った。
「その言葉が聞きたかったんだ」
目をそらしてしまった。
急に恥ずかしくなった。ゲームで例えると親密度が上がった感じがした。
迷惑だから嫌われようと思ってたのになんでお礼言ってるんだ、俺!
「あとそれから、君の全てが好み。大きな目も柔らかそうな髪も、体型も……とにかく好み。これこそまさに一目惚れ! あの日以来ずっと君のことを考えていた」
「えっ」
ストレートに好意を伝えられて急に顔が熱くなる。
「こんな好みの人が世界に存在するなんて驚いたよ。好きっていう感情に性別もなにも関係ないんだな……って。こんなに好きになれる人はきっと二度と出会えない。だから君がほしい。必ず俺のものにしてみせる」
「わ、わかったから!! それ以上言うな……っ!! 恥ずかしい!!」
たぶん俺の顔は真っ赤になってるだろう。面と向かってこんなに見つめられて、そんな言葉言われたら、恥ずかしいに決まってる。
そう言って声を荒げたのは逆効果だったらしく、玲依はさらに恍惚の笑みを浮かべた。
「え、照れ顔……めちゃくちゃかわいい……破壊力やっば……」
「だから恥ずかしいからやめろって!!」
そのとき、玲依が発していた女声と同じ声が聞こえた。
「れーい、うまくいってる?」
「いいとこだから邪魔するな……芽依」
「えっ?」
目の前に、同じ顔がふたつ並んでいた。
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