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玲依と芽依

 増えた!?  目を見開いてキョロキョロと見比べた。全く同じ顔だ。服は違うが、同じだと見分けをするのは難しいだろう。  そんな俺の様子に気づいて、あとから来た方の女の子が笑顔で話しだした。軽く会釈されたので、つられて返す。 「どうも、尾瀬くん。私とは学科同じだけど……話すのは初めてかな。私は髙月芽依。玲依の双子の妹」 「……双子!?」  開いた口が塞がらない俺をそっちのけで双子同士が喋る。 「えっ 言ってなかったの?」 「その方がおもしろいだろ?」 「あ~なるほど。尾瀬くん、からかいやすそうだしね。玲依が好きなのもわかる」 「からかいやすそうってだけじゃない。俺は由宇の全てが好きだから。……いやまあ、からかいやすくておもしろいけど」 「ほら~」  妹の方が玲依の肩をつんつんしている。見るだけで仲がいいとわかる。  いったいなんなんだこの双子は……!? 「え、あの、全然状況がわかんないんだけど……!?」  俺が話を割って入ると、双子はお互いに顔を合わせて俺に向かって順に話し出した。   「……君に惚れた日以降、君がカフェに来るのをほぼ毎日見張っていた。やみくもに広い大学内を探すよりも効率的だと思ってね。君の名前も学科も学年も何もわからなかったけど、どうしても想いを伝えたくて」  こいつ、そこまでしてたのか……!? 「それで、このカフェでの君と名越翔太との会話の内容から芽依と同じ学科で同い年ってところまでわかった」  妹の方は玲依の隣に立ったまま、続けて話す。 「で、玲依に入れ替わってほしいって何回か頼まれたの。玲依、昔から私の変装完璧だし声まで似せれるから誰にもバレないんだよね。背はヒール履いてるって誤魔化して、体型隠せる服着たりして」 「芽依の格好で君と同じ講義に出て、君のことを見てたんだ。会話を聞いたり、他の子に君のことを聞いたり……それで君の情報を仕入れていた」 「ま、マジで……!? そ、そこまでするか……!?」 「そう、そこまでするぐらい俺は本気なんだ。俺のこと好きになってくれた?」 「いや全然……」  むしろ重すぎてドン引きしてるけど……でもそうやってストレートに思ってる好意を言われるのは……嬉しいような…… 「……うっ それでもかわいい……やっぱ好きだ……絶対振り向かせる……!」 「それ心の中で言うやつだろ! 恥ずかしいからわざわざ言うな!!」  やっぱり撤回だ。こいつと話してるとペースが乱れる! 対処法がわからん!!  俺と玲依の様子を見ていた妹の方が頷きながら上機嫌で話し出す。 「いや~でも私も玲依がここまで本気出すなんて驚いたんだよ。お兄ちゃんのそんな本気見ちゃったら、協力してあげないわけにはいかないと思ってね!」  同じ顔の妹がキメ顔で親指を立てる。 「えと……芽依、でいいか? そもそもお前のお兄ちゃん、男相手に恋してるんだぞ、いいのか……?」  自分でわざわざ恋してるとか言うの恥ずいな……と思いながら芽依に問いかけた。 「おもしろいから大丈夫!」 「似たもの同士かお前ら!!!」 「「双子だからね」」  綺麗にハモった。しかも同じ笑い方。  さすが双子……  ああ、だから玲依を名字で呼んだときに区別がつかないって言ってたのか……  俺はなぜかそこだけ冷静になって考えていた。 「あ、3限の授業は私が出るからね。ちゃんと講義受けないと課題に困るから。というかそれ言いに来たんだった」 「わかったよ」 「尾瀬くんも早く行かないと遅刻するよ~じゃあお先に」  もうそんな時間か!?と時計を確認すると針は講義の始まる10分前を指していた。 「やばっ……! 俺も行かないと……」 「待って」  立ち上がろうとしたとき、ふいに手を掴まれた。 「なんだよ……?」 「次の週末、デートしてほしい」 「デートぉ!?」  突然のデート発言に声が裏返った。  玲依は真剣な顔で俺を見つめる。 「次は芽依の姿じゃなくて、ちゃんと俺自身の姿でデートがしたい。いや、まだ恋人同士じゃないからデートとは言えないか……とにかくふたりきりで遊びに行きたい! もっと君好みのケーキを知りたい!」 「なんだよその誘い方!?」  というかそんな犬みたいな目で見るなよな……!? キッパリ断りたいけど良心が痛むだろうが!    あっ……そういや今週末って…… 「そういや予定入ってるから!! 今週末は、無理!!」 「……今週末#は__・__#……?」  ん? なんか変なスイッチを入れてしまったような……気が…… 「と、いうことは今週末は無理だけど別の日ならいいって意味と考えても……!?」 「ち、ちがうちがう!! いいとは言ってないだろ!!」 「いつなら空いてる? 君の予定に合わせるから!」 「だから……!」  そのときふと時計が目に入る。講義までもうあと5分のところだった。 「ちょっ……マジで遅刻する! これ以上お前と喋る時間はない! あっ……ケーキごちそうさま! じゃあな!」  俺はそのままカフェを飛び出した。反射的に後ろを確認する。  追ってきては……ないな……  本当に変なやつに好かれてしまった。いくら突き放しても距離は離れるどころかむしろ縮まっているような気もする。  あいつを振り切るのは相当大変そうだな……  でも、どうしてか嫌いになりきれない。心の奥底に甘ったるいなにかが引っかかってるみたいだ。食べたケーキのせいか?  いやいやなんであいつにこれだけ心を揺さぶられてるんだ!?  俺の心の平穏はどこにいったんだよ!  そんなことをひとしきり考えながら、俺は講義室まで走るのだった。

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