9 / 142
お宅訪問は間がもたない
「ここが由宇の家か~!!」
玲依がリビングで嬉しそうに声をあげた。
「どうぞごゆっくり。じゃあ俺は部屋戻るから」
「ありがとう、宇多くん」
結局連れてきてしまった……
何やってんだ俺……自分のこと好きって言ってくるやばいやつを家にいれるなんて……
「由宇のにおいがする……」
「やめろ、嗅ぐな」
たまたま父さんが出かけててよかった……休みの日だし家にいるかもって思ったけど……
ただの友達ならまだしも、息子に惚れた男って……絶対知られたくない……!
でもこのままリビングにいると宇多にもこいつの言動を見られる可能性があるし……
「とりあえず俺の部屋行くか……?」
「誘ってる……?」
「よし、今すぐ帰れ」
「冗談だって。俺、由宇とはちゃんとゆっくり距離を縮めるつもりだから。襲ったりしないよ、今はね」
「今は……!?」
それは今後はあるということか!?
……と言いそうになったがギリギリ口から出なかった。
言ってしまったらすぐにでも飛びついてきそうな瞳が俺を狙っているような気がした。
「念願の、夢にまで見た由宇の部屋……!! けっこう広いんだね! ベッドに寝転んでもいい? 吸いたい」
「まじでやめろ」
玲依は俺の部屋を舐め回すように見ている。なにか変なものを発見されないか心配になる。特にないけど……
「そのへん座ってろ。物色はするなよ。特におもしろいもんはないぞ。というか家まで来て何するつもりだ?」
俺は部屋に数枚置いてある来客用の座布団を取って玲依にむかって投げた。
「俺は由宇と時間を共有するだけで嬉しいから、何もしなくてもいいよ」
「ええ……」
玲依の隣に座るのは気が引けたので勉強机用のイスに座った。
床に座った玲依はにこにこと、こちらを見てくる。視線に耐えきれず、つい目を逸らした。
……が、それでも視線が痛い。
時計の音だけが部屋に響いた。
「……間がもたない!! 部屋見たんだからもう満足しただろ! 帰れよ!」
「もうすこしいたいな……お願い、由宇」
「うっ……」
俺はどうやらこのお願い顔に弱いんだろう。こいつに会ってから、なんだかんだこの顔をされるとどうしようもなくなってしまう自分がいた。
ーーでもやっぱり耐えられなかった。無言空間はどうしてもキツイ。
俺のコミュニケーション能力はうわべの会話用にしか作られてない。数分の世間話程度なら余裕だが、何時間もふたりきりで話すことには慣れてない。
素の俺を見せてない相手だったら適当に相手の喜びそうな話題を振って喋らせておけば俺は相づちをうつだけでいい。
でもこいつは違う。うわべじゃ通じない。完全に俺を知ろうと近づいてきている。
何を言っても相手の好感度を上げていくだけ。
本当にやりづらい……
そんなことを思いながら、俺は玲依を引っ張って宇多の部屋の扉をノックした。
「宇多……一緒にゲームしないか……?」
宇多はゲームをポーズ画面にし、こちらに振り返る。
「なんで俺と? 玲依さんとは友達じゃないの? ふたりで話してればいいじゃん」
「間がもたないんだよ……」
「間?」
「俺は何もしなくていいって言ったんだけど……由宇と一緒にい」
またよからぬことを言いそうな気配を察知したので玲依の口をふさいだ。
「その対戦ゲームでもやろうぜ。3人でも対戦できたろ?」
宇多は無言でじっとこっちを見ていたが、俺の様子を察したのか、まあいいよとつぶやいた。
「できるよ。このゲーム、玲依さんやったことある?」
宇多が画面に映しているのは今日コラボカフェに行ったそのゲームだった。
「ああ、そのゲームは俺の家にもあるよ。由宇とよくやってるの?」
「由宇は弱くて相手にならない」
「むっ……それはお前が強くなりすぎなんだよ」
俺もそこそこにゲームはするが、宇多ほどの量ではない。昔は俺のほうが強かったのに、いつのまにかどのゲームも宇多に勝てなくなった。
「よし、お互い手加減はなしでいこう」
宇多からコントローラーを受け取り玲依が言った。
「3人対戦になればどさくさに紛れて宇多も倒せるかもしれないからな。久しぶりに勝ちはもらうぜ」
「由宇が俺に勝てるわけない」
そうして対戦が始まった。
ともだちにシェアしよう!