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次の約束
「玲依さんって由宇のこと好きなの?」
「は!?」
宇多の部屋に入ってすぐだった。突然の発言にまず驚きのリアクションが出た。
「え、いや!? 何言ってんだ突然!? ああ~~っと……ええと……いや……そんなことは……」
なにか言おうと思ったけど動揺してうまく言葉が出なかった。部屋には気まずい空気が流れる。宇多が手を止めたゲームのBGMだけがいやに大きく聴こえた。
何も言ってないのにどうしてそんな疑問になるんだ、弟よ。
おい……兄が男に好かれてるって知った弟の気持ち……なに? とにかく気まずい……顔見れねえ……今日の晩飯ふたりきりじゃないよな……気まずいから父さん帰ってきてくれ、頼む。
だんだんと思考が別の方向にそれてきた。
沈黙を破ったのは宇多だった。
「ふーん……由宇が動揺するってことは当たりか」
「はっ……」
こいつ!! カマかけやがったな!?
いつのまにそんな技身につけたんだよ!!
「いや俺は全然あいつのことどうでもいいし、あいつが一方的に言ってくるだけだし……」
口から出るのは言い訳にしか聞こえないような言葉ばかりだった。しかも顔も熱いので真っ赤になってる可能性がある。
「それにしては猫かぶりしてないみたいだったけど。素で話してたし……」
「あいつに猫かぶりしても無駄だからだよ。ほんと迷惑なやつ……」
宇多は全部見透かしているみたいにじっとこちらを見てくる。
俺、そんなにわかりやすいか……?
「由宇、俺のこと気にしてる? 俺は由宇が誰に好かれようが別に関係ないからいいよ」
「お、おう……お前は気にしないのか……」
我が弟ながらいつもいつも冷めてんな……
「慣れてるし」
「ん? 慣れ……?」
慣れてる……って言ったか? 何に?
どういうことだ?
宇多はそのままの調子で続けた。
「それで、翔太くんのことはいいの?」
「? なんで翔太の名前が出てくるんだ」
「うわ……翔太くんかわいそう」
「は?」
宇多はまたテレビに向かう。
この話の流れで突然幼なじみの名前をだされて訳がわからなかった。
「翔太くんがそうしないんだったら俺からは何も言わない。翔太くん次第だし由宇は今のところ別に気にしなくていいんじゃない?」
「ほんとに話の流れがわからん……まあいいか。じゃあ俺晩飯作るから」
「はーい」
宇多の部屋を出ようとしたところでもうひとつ言いたかったことを思い出した。
「宇多、対戦のコツ教えてくれ。あいつより上手くなって、今度来たとき仕返ししてやる」
「……」
テレビに向かった宇多がまた手を止めた。謎の沈黙の後、宇多が振り返る。
「いいよ。玲依さんの癖はだいたいわかったから対策できるし。指導してあげる」
「よし。じゃあ今夜から特訓だ!」
意気込んで、俺はリビングに向かった。
「今度って……どうでもいいって言ったくせにまた家に呼ぶ気じゃん。翔太くん以外に由宇が心開いてるなんて初めて見た……玲依さんすごいな。というか由宇のどこがいいんだろ」
由宇のいなくなった部屋で宇多のひとりごととコントローラーの音が響いた。
「うわ……さっそく玲依からメッセージきてる……」
風呂に入り、宇多の部屋に行く前にメッセージを開くと、美味しそうなハンバーグの写真が送られてきていた。それと軽いメッセージ。
「晩飯ハンバーグって言ってたもんな……」
既読スルーは罪悪感あるし一応返信はしとくか……
"ハンバーグ、美味そうだな"
"こちらこそ今日はありがとう"
ーーと、短い文章を送った……がすぐにまた音が鳴った。
「返信はやっ」
驚いてスマホ落としそうになった。まだ1分もたってないんだけど……
"今度由宇にもハンバーグ作るね"
"また由宇の家にお邪魔したいな"
"宇多くんとの対戦も楽しかった"
"由宇も強くなってほしいな 勝負したいし"
「こいつ……文章でもムカつくな」
"言われなくても今日から宇多とコソ練する予定だから!"
"次は玲依をコテンパンにしてやるからな!"
"コソ練って言っちゃったらコソ練じゃないのでは?"
「た、たしかに」
せっかくあいつを驚かせてやろうと思ってたのに口を滑らせた……メッセージだから口じゃなくて文字? いやそれはどうでもいいわ。
"とにかくこれから宇多と特訓するから!"
"おやすみ!"
"かわいい"
"おやすみなさい"
文章でもかわいいって送ってくるのかよこいつ……
俺はため息をつきながらスマホをポケットにしまった。
でも、俺の返信を待ってたのかもしれない。そんな玲依の姿を思い浮かべるとなんだか笑えてしまう。
「よし! 宇多の部屋行くか!」
……と意気込んで立ち上がった瞬間、ある事に気づいた。
俺、さりげなく次の約束をしてしまったんじゃないか……!?
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