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幼なじみと恋敵

「ゆーう」 「うわっ!」  玲依の声だ。  食堂で突然真後ろから声をかけられて持ってたどんぶりを落としそうになったが、ギリギリ耐えた。 「お前なあ……いきなり驚かせるな!」 「由宇を見つけれて嬉しくてつい」  玲依はいつもの調子でにっこり笑ってごめんごめん、と軽く言った。  俺を見たあと、目の前で一緒に昼飯を食べていた翔太に目線を移した。 「名越くんも、こんにちは」 「誰かと思えば……あのとき由宇宛の封筒渡してきたやつか」 「覚えていてくれてどうもありがとう」  なんか……空気が重いな……  探り合ってるというか、目が笑ってないというか……  俺は学食のカツ丼を食べながら様子を伺った。 「お前は髙月芽依とは別人なんだな? 顔がそっくりだから双子かなにかか?」  芽依は最近、よく話しかけてくる。俺の隣にいる翔太にも話しかけているので、翔太も名前ぐらいは覚えたんだろう。  だいたい挨拶か講義の内容の話だけど、そんな内容でもいちいち玲依に話したりしてないだろうかと心配になる。逐一報告されていたら普通に恥ずかしい。 「……よくわかったね。俺は髙月玲依。芽依は双子の妹だよ」  一瞬、謎のピリピリした間があった。  冷戦状態みたいな…… 「やっと答えたか。どうりでそっくりなわけだ。たまに入れ替わってたりするのか?」 「ご名答。その洞察力で由宇を守ってきたのかな?」 「……」  守る……? どういう意味だ……?  玲依からの質問に翔太は答えなかった。その理由はわからないけど、翔太は怒っていた。顔には出していないけどずっと一緒にいるから雰囲気でわかる。  怒ったところ久しぶりに見たな……そう思いながら味噌汁をすすった。 「ーーそれで、由宇に何の用だ? 俺にそんなこと言いに来たわけじゃないだろ」 「んっ!?」  急に自分の話題になり、味噌汁を吹きかけた。 「名越くんの言う通り。俺は由宇を探してたんだ。この前の話の続きをしたくて……」 「こ、この前……?」  玲依が俺に視線を戻す。その目……!  これは……またまずい予感がする…… 「今週こそデートに行……」 「デッ……!」 「デート?」  翔太が先に疑問を返した。翔太は俺をじっと見つめてくる。視線が痛い。 「ああ~いや、違くて、こいつ遊びにいくだけなのにデートとか言ってくるんだよ、ははは、まぎらわしいんだよな~!」  く、苦しい言い訳……!  絶対バレてる。嘘だってバレてる。翔太めちゃくちゃ怪しんでる。 「そう、俺たちデートに行くんだよ。今週こそはどうかって……」 「へぇ」  嘘にのってくるな!! おまえが喋ると話がややこしくなるだろ!! 「ああ~~もう! 玲依!ここじゃなくて外で話すぞ! ごめん翔太!」  何回も断ってるのに全く諦める気配がない。こんなところでデートがどうとか言うなよ! 周りにも翔太にも聞かれたくないし、どうにか場所を移したい。 「皿は片付けといてやるから」 「ありがと!」  翔太に軽く手を振り、俺は玲依の腕を掴んで食堂から出た。  こいつ、細いと思ってたけど腕にわりと筋肉あるな……あっ、ケーキ作ってたら筋肉つくのか。けっこう重労働って聞くし。  そんなことを思考していると食堂から少し離れたところまできていた。このあたりは校舎が少ないから人通りもあまりない。恥ずかしいことばっかり言われるからな……このあたりでいいか。  ……ん? そういやこいつがこんなに黙ってるなんて珍しいな?  いつもうるさいのに……と疑問に思って立ち止まる。振り向くと玲依の顔がいつもより増して赤くなっていた。 「え、なんで赤く……!?」 「はっ……意識飛んでた……由宇から触ってくれるなんて……心臓が……うわ、今ごろ汗めっちゃ出てきた。ここ常夏? めちゃくちゃ暑いね?」 「落ち着け」  腕掴んだだけでこうなるのか……    でも、余裕のない玲依を見ているとなんだか笑いがこみあげて、いつのまにか声を出して笑ってしまった。

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