13 / 142
デートの誘い(必死)
「由宇ってば俺とふたりきりがいいなんて大胆……!」
さっきからずっと顔が赤い玲依が俺の手を握る。自分から握るのはいいのか……
「ちがう! あの場で翔太に聞かれたくなかっただけだ! 変に勘違いされるかもしれないだろ」
幼なじみにそういう恋愛話は聞かれたくないんだよ……こっ恥ずかしいし気まずい……しかも男に告白されたって……
「怒ってる顔もかわいいねぇ。俺は勘違いされても構わないんだけどなあ……むしろそのために言ってるし」
「やめろ」
俺が手を振り払おうとしたからか、玲依は自分から手を離した。
「で、今週なんだけど」
急に話が戻ってきた……いや、もともとそのデート(?)の誘いをハッキリ断るためにここまで連れてきたんだ。
「断り続けてるんだからいい加減諦めろよ」
「嫌だ。絶対由宇とお出かけしたい」
「曲げないな……」
一歩も引かない玲依にため息が出た。初めて会ったときからそうだ。こいつは曲げない。断っても断っても諦めない。
「……どこに行きたいんだ?」
「えっ!?」
玲依の目が輝きだす。黙ってても顔がいいのにそんなに目をキラキラさせるな。
「そこまで言うんだったらどこに行きたいのか気になるから……ひとまず場所を聞くだけな」
「これ!」
スマホの画面を勢いよく見せられる。
「街のスイーツフェア……?」
画面にはそのサイトが表示されていた。玲依からスマホを借りて下にスクロールする。そこにはフェアの概要と、対象店舗のスイーツの写真が載せられている。
「事前にフェアのチケットを買っておいて、それを対象の店で出したらフェア限定のケーキとかパフェとかが食べられるってやつなんだけど……」
玲依が持っていたカバンをゴソゴソしはじめる。取り出した手には紙の束が握られていて、それを俺の目の前に差し出した。
「なんとここに、そのチケットが大量にありまーす!」
「なんで!?」
「コネ」
「うわ……」
ほんとにこいつならやりかねない……手段選ばなそうだし……
「……というのは半分冗談で、俺は調理科だから勉強がてら食べてこいって感じで特別にひとり1枚ずつ貰えるんだよ」
「1枚……?」
どう見ても手には10枚以上の紙が握られている。
「片っ端から、期間中に行けない人の分貰ってきた。由宇と行くために交渉頑張ったよ」
玲依が怪しく微笑む。やっぱりやってた。コネ使いまくってるじゃねぇか。
「もっと他のことを頑張れ……」
その微笑みもつかの間、玲依は肩を落として喋りだす。
「でもフェアは今週末で終わり……このままじゃせっかくのチケットが……!」
たしかに、スマホの画面には今週末までの日付が書いてある。
「そりゃあもったいないけど……」
「このチケットがあればタダでスイーツが食べれるんだよ!」
玲依がチケットをひらひらと振っている。
「芽依と行けばいいのでは……?」
「芽依とは先週行ったよ。太るからこれ以上は無理って言われた」
だから先週、街で出くわしたのか……この双子仲良いな……というか先週チケット使っておいてまだあるのか。どんだけ集めてんだ。
「お前友達いそうだし、俺じゃなくても……」
双子揃って社交的みたいだし顔もいいし、わりと知り合いがいるんだろう。そうじゃないとこれだけのチケットは集まらない。
わざわざ俺を選ばなくてもいい。俺じゃなくてもいい。
自分で言い聞かせた。選ばれなくても傷つかないように。
「このチケットは由宇と行くためのものだ。だから俺は絶対由宇と行きたい」
チケットを握る玲依の手に力がこもっている。
「他の人じゃなくて……由宇、君と行きたい」
……これだけ言っても……こいつは俺を選ぶのか。
「絶対由宇と行きたい!!」
「必死か!!」
玲依が手を伸ばし、再び手を握られた。その手は暖かい。
「お願い、由宇……」
「うっ……」
まただ。この表情、この目……
俺は悩んだ。玲依の言葉、表情、もったいないチケット、タダで食べれるケーキ、こいつと関わりたくない気持ち、こいつが俺を好きってこと……
あれこれ思いを巡らせた結果、天秤は傾いた。
「……チケットがもったいないからだからな!!」
「えっ」
俺の言葉に玲依がまたいっそう笑顔を輝かせた。
「お前と行きたいとかいう、深い意味はないからな! 俺はケーキが食べたいだけだから! その顔もヤメロ!」
「ありがとう、由宇! あ~~やっぱ大好き……素直じゃないとこも好き……」
「抱きつくな!! お前だんだん距離近くなってないか!?」
玲依は気のせいだよ、とはしゃぎながら俺を抱きしめた。絶対気のせいじゃない。
また流されてしまった……
俺はやっぱりこの顔に敵わないみたいだ。
押しのけようとしても、しばらく玲依は俺から離れなかった。
ともだちにシェアしよう!