14 / 142

これはデートじゃない

 ついに週末が来てしまった……  約束してしまったものの、気も足取りも重かった。なんで俺は玲衣とデートすることになってんだ……?  いや、これはデートじゃない。ケーキ食うだけだし。深い意味はない。あいつがデートデートって言うから変にデートを意識してしまってる。やめよう。 「由宇!」  待ち合わせ場所の駅前に着くと、玲依が手を振って走ってきた。  飼い主を見つけた犬みたいに飛びついてきそうな勢いだったので、ちょっと距離をとる。  それと同時に周りを歩いている女子の目が俺に集まった。こいつ、ほんと顔がいいからな……俺を待ってる間も声かけられてたんだろう。 「……早いな」 「由宇こそ。俺は由宇に早く会いたくて待ちきれなくて……」  今は待ち合わせ時間の10分前。その言い方、何時からここにいるんだ……?  怖かったから聞かないことにした。 「まずどこに行く? お店もチケットもたくさんあるけど……」  玲依はスマホを取り出して店を検索している。 「うーん、特に決めてなかったな。お前は?」 「俺は由宇の行きたい場所に行きたい」  爽やかな笑顔で返された。 「決めづらい! お前が決めろ! 元はと言えばお前の持ってきたチケットだし!」 「そっか……じゃあとりあえず俺のお気に入りの店に行く?」  玲依がスマホにその店のホームページを表示する。 「うん、そこで」  深く考えるのも面倒だったのでとりあえずそこに向かうことにした。  玲依について歩き出したが、急に顔を覗き込んできた。 「手、繋いでもいい?」 「だめ」  ええっ!と玲依は悲しそうに声をあげる。  そんなんしたらほんとにデートみたいだろうが!恥ずかしいし! 「いつか繋げるように頑張ろ……!」  玲依は決心したようにつぶやき、拳をぎゆっと握った。  カフェに入り、席に着く。内装は綺麗で、雰囲気もいい。なんとなくこういうの選ぶセンスは良さそうだなと思ってたけど、確信になった。    フェアのチケットがあるからそれを店員に手渡した。そのあとも玲依はメニューを手に取り真剣に見ていた。  このチケットってもともとは勉強のためにもらったって言ってたな。 「メニュー見て、勉強になるのか?」 「うん。どんなケーキを置いてるかとか、写真の撮り方とかも参考にしてる。せっかく美味しいのに写真が悪いと注文する気しないしね。前に来たときと変わってるケーキもあるし……」  ケーキのこと熱心に考えてるんだな。俺に対しての態度しか見てないから、新鮮だ。  いつかこいつがケーキ作ってるところ見てみたいな……いやいや、何考えてるんだ。また流されてる。  それにしても…… 「……お前ほんと顔いいよな」    つい口にだしてしまった。  真剣な顔してるし、いやほんと、こいつの顔見れば見るほど整ってて…… 「……」  玲依はぽかんと口を開けていた。 「え、なんで黙るんだ」 「いや……それよく言われるから全く気にしてなかったんだけど……」  だろうな。でもその言い方ムカつくな…… 「由宇に言われるとめちゃくちゃ嬉しくてびっくりした……この顔に生まれてきてよかった、世界ありがとう……! ね、由宇……もっと言って!」  玲依は頬を赤くして前のめりになった。大型犬がしっぽふってるみたいなおねだりだ。 「あ~はいはい……大げさだな……」 「流さないで! そんなとこも好きだけど!」  発言が残念すぎて台無しだ……

ともだちにシェアしよう!