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最悪の再会
玲依が一方的に告白してきてからあっという間に1か月が経っていた。
隙があれば芽依と代わって講義を受けてるし、連絡もまめにしてくるし、玲依の作ったケーキも何度か食べた。ケーキは美味いし……
しかもだんだんと玲依のペースに流されている俺もいた。というか玲依と話すのが普通になっている。
こんなはずではなかった……!
冷たくしてれば諦めると思ってたのに全く諦めない。
「講義終わったぞ、由宇」
翔太に呼ばれてはっと我にかえる。今日最後の講義だったので、周りは我先にと講義室を出ていく。
「俺は帰るけど、翔太はサークルに行くのか?」
「ああ、一緒に帰れなくて悪いな。気をつけて帰れよ」
「大丈夫だって! 俺のこと心配しすぎだろ。そりゃあ翔太みたいに強くないけどさ」
翔太は中学のころからいろいろな格闘技をやっていて、相当強い。空手とか柔道とか少林寺拳法とか……大学でも空手サークルに入っていた。
「心配なんだよ。お前危なっかしいから」
翔太が俺の頭を撫でた。
「子どもあつかいかよ……じゃあまた明日な」
「また明日」
翔太と別れて階段を下りる。
翔太はよく俺の頭を撫でる。たぶん昔からの癖だ。でもここ最近は回数が前よりも多くなった気がする……? 気のせいかな。
建物から出ると、すっかり日が落ちていた。5コマ終わりは6時になる。早く帰って晩飯作らないとな。
そうだ、今日の晩飯考えないと……冷蔵庫になんかあったっけ……? 食材買って帰ろうかな……
そういえば玲依の作るハンバーグ、結局食べてないな……
晩飯のことを考えると同時に玲依のことを思い出してしまった。
……あ~~くそ!! また玲依のことばっかり考えてる!!
広い大学内だが、わりと抜け道がある。人通りの少ない門までの最短ルートを歩いていたとき、視線を感じた。
歩く先には金髪の男が立っていた。白衣を着ているけど若いし同い年ぐらいだろう。
暗くて表情がわかりにくい。それにしてもこの男妙にこっち見てくるな……?
いかにも怪しい。なるべく目を合わせないようにとすれ違おうとした瞬間、呼びかけられた。
「由宇くん、見いつけた」
驚いて振り向くと、その目は狙いを定めたようにじっと俺を見つめていた。名前を呼ばれたということは俺のことを知ってるのか……? でもこんな人に覚えはない。
「……誰ですか?」
風に揺れるやわらかそうな金色の髪、電気に照らされて透き通る緑色の目。笑った口元には怪しげに犬歯がのぞいている。
「俺のこと覚えてない? 小学校のときよく遊んでたじゃん」
小学校……? 遊んでた……?
「あっ……!!」
思い出した。この特徴的な金色の髪、緑の目……
確か名前は、音石七星だ。小学校の途中で引っ越したんだっけ。
「えっと、確か音石……だよな? 久しぶりだな」
いちおう笑顔で会話しておこう。
我ながらとっさによく思い出した。こいつもよく俺のことわかったな。10年ぐらい会ってないはずだけど。
でも、なるべくならこいつのことは忘れておきたい記憶だった。
同じ大学だったのか……できれば会いたくなかったなあ……
「んん……?」
音石は顔をしかめて俺に近づく。
「なっ なんだ?」
「……由宇くん、雰囲気変わった? 上っ面だけで笑ってる感じ? なんか距離があるなあ……」
じろじろと観察されている。
「それに昔は名前で……ななせって呼んでくれてたよね?」
「あぁ……そういやそうだったな……まあ10年ぐらい経ってるし、多少は変わるよ」
め、めんどくせ~~!!
こいつを忘れていたかった理由はただひとつ、俺はこいつが嫌いだからだ。
小学校のころ、散々嫌がらせばっかりされた。虫を捕まえて投げてきたり、足をひっかけてこかされたり……他にもいろいろ。
今となれば子どもっぽいイタズラばかりだが、嫌なもんは嫌だ。
そのせいで今も虫苦手だし。
よく遊んでたじゃん、とか言われたけど遊んでいた覚えはない。一方的な嫌がらせだ。
あ~~なんか嫌な思い出ばかり出てくるな……とりあえず一刻も早く話を終わらせたい。
「ごめん。俺、これから用があるから……じゃあな、七星」
名字で呼ぶとまたうるさそうだから名前で呼んでおいた。別れのあいさつもそこそこに、俺は背を向けて歩……走りだそうとした……
「逃さないよ」
「え」
のに、腕を掴まれ動けなくなる。
確かな覚悟を持ったその言葉に寒気がした。狙われている、と直感する。
振り向こうとしたのと同時にガチャン、と無機質な音がした。
音のした首元に目線を動かすと、鎖のついた首輪がはめられていた。
「ちょ、ちょちょちょ!?!?」
「そうそうその反応! ずっとそれが見たかったんだ……」
うろたえる俺を見て七星は笑っていた。とてつもなく嬉しそうに。
ゾッとした。こんなことをして笑っているのか理解できない。
「はーい、じゃあこっちに来て」
鎖は七星の手に握られていた。ぐいっと引っ張られ、体ごと引き寄せられる。
外そうとしてもびくともしない。おそらく鍵がかけられている。
「おまっ……これはずせ! なんでこんなこと……」
「やだよ。一生外してやらない♡」
七星は口づけするように鎖を口元に近づけてニヤリと笑った。
電球の切れかかった薄暗い光の下、七星の満面の笑みと口元から覗く犬歯がさらに怪しさを引き立てた。
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