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繋がれた鎖
「でもさあ、こんなところで暴れてていいの? もう夜だし人通りはないけど大学内だし、いつ誰に見られてもおかしくないよ? それとも首輪されてるとこ見られたい?」
「うっ……」
そう言われると黙るしかなかった。
ここはまだ大学内。こんな状態、絶対誰にも見られたくない。男が男を首輪で拘束なんて……見られたのが知らない人でも噂が広まったりしたら……
「……簡単に黙っちゃって。やっぱり由宇くんは反応がおもしろいなあ。大丈夫、由宇くんが他人にこんな姿見られたくないのわかってるよ。だからちゃんとこれは隠しながら歩いてあげる」
大丈夫、わかってるよ、じゃねぇよ……!脅しかよ!
「だから俺についてきてくれる?」
「拒否権は無いように見えるけど」
七星は鎖を握りしめて笑った。
「そうだよ。引っ張ると由宇くんの首に痕が残っちゃうから従ってくれないと困るなあ」
……今は従うしかないか……
俺は仕方なく七星について歩き出した。
七星は俺がいつも利用しない建物ばかりある方向に向かっていた。
「この大学、広いよね。おかげで由宇くんに全く会えなくて、同じ大学って知ったの最近だもん」
「へ~……」
「あはは、興味なさそ~」
マジで会いたくなかった。どうしてこうなった。
七星は一方的に話しながらも歩みを進め、目の前に大きい建物が見えてきた。見覚えのない建物だ。入り口には
"理学部 1号館"
と書かれていた。
「俺、理学部なんだ。普段はこのあたりの建物で講義を受けてる。どの学部もそうだけど、使う教室って限られるからね。ここ入ったことないでしょ?」
「ああ……」
「もうちょっとで着くからね」
……どこに!? 俺を連れていって何する気なんだ!?
再会した途端、なんでこんなことをするのか全くわからないし、される覚えもない。
なんとか解放してもらうよう説得できればいいけど……
電気がついていても建物内は薄暗かった。古い建物だな……切れている蛍光灯もある。
階段を上っていると上の階から女子の声が聞こえてきた。おそらく踊り場にいるんだろう。
「先生に直接レポート見てもらうの地獄じゃない?」
「わかる~! 添削待ってる時間が苦痛でしかない」
気づかれないように様子を伺う。
完璧に通り道にいるし……これ絶対見られるだろ……!
首輪は服で隠れて見えないだろうけど、問題はこいつの握っている鎖だ。
終わった……大学でSMプレイしてる男がいたって噂が明日には広まるんだ……! 写真撮られて拡散されるんだ……!
「由宇くん、俺の背中にくっついて」
頭を抱えていた俺に七星が手招きする。なるべく鎖が伸びているぶんだけは離れておきたい。
「え、やだ」
と、とっさに返した。
「見られてもいいの? 俺は全然いいけど?」
七星が笑いながら鎖を見せつけてくる。
くそ……!
背に腹は替えられない。こいつのことは信じたくないけど、今は賭けるしかない。
俺は自分と同じくらいの背丈の七星の背中に隠れるようにくっついた。
「由宇くんは俺が守ってあげる。由宇くんはなるべく普通に歩いてね」
七星は鎖を手に巻いた。保っていた距離がなくなり、嫌でも離れられなくなる。
背に隠れながら階段を上がる。女子たちのいる踊り場はすぐそこだ。
すれ違う瞬間、七星は体の向きを変えた。不自然にならないように死角になってうまく鎖を隠している。俺は七星に言われたとおり、普通に見えるように歩いた。
女子たちはチラッとこちらを見たが、何事もなかったように会話を続けた。
よかった……! たぶん見られてない、よな!?
1階ぶん階段を上がり、女子たちが見えなくなった。立ち止まった七星はドヤ顔で笑った。
「ね、大丈夫だったでしょ?」
そう言いながら鎖をもとの長さに伸ばした。
ーー意外だ。てっきり見せびらかすもんだと思ってたけど……
「もっと俺を信用してくれてもいいんだよ?」
「首輪つけといて何が信用だよ」
あはは、と笑った七星は再び階段を上がりはじめた。
「まあ、廊下の反対側にもうひとつ階段あるんだけどね」
「はぁっ……!? じゃあ最初からそっち通ればよかったじゃねえか!!」
七星は振り返って、いたずらっぽく舌を出す。
「由宇くんをからかうの、たのしーんだもん♡」
こいつ……っ!!
そういうところ、全然変わってないな……!?
「こんなことするのもからかってるだけか?」
「それもあるけど……いちばんの理由は手に入れるため……かな」
階段を上りきり、廊下を歩く。人気のない廊下に渇望するような七星の声が響く。
「どういう意味だ……?」
「続きは部屋でゆっくり話してあげる」
七星の言葉とともに、廊下のいちばん奥の部屋の扉が開かれた。
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