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見た目はウサギ、中身は……
「はい、とうちゃく♡」
「なんだここ……!?」
七星が部屋の電気をつける。
最初に目に入ったのは正面の机に置かれた大量の実験器具。まさに実験中な装置もあれば、中に怪しげな色の液体が入っているものもある。
壁一面には難しそうな本がぎっしり並んでいる。部屋の奥は仕切りがあって見えなかった。
「俺専用の実験部屋」
「専用……!?」
専用の実験部屋って!? こいつ一体何者だよ!?
「由宇くんさぁ……こんな状態で部屋に連れ込まれてるんだから、もう少し警戒心持った方がいいんじゃないかな?」
俺の耳元で七星がつぶやく。
気がついたときには後ろ手に手錠をかけられていた。完全に部屋に気を取られていた。
「あっ……くそ! はずせ!」
引っ張ってみるが、ガチャガチャと無機質な音が響くだけだ。
七星は俺の言葉には耳を傾けず、部屋の奥まで連れていかれる。
部屋の奥には大きめのソファとそれにあわせた低めの机。それとノートパソコンが置いてある事務机とイスが置いてあった。
「鎖はここに繋いで……」
七星は手際よく壁に鎖を取り付け、南京錠をかけた。用意周到すぎるだろ……
「うん、完成♡」
「なにが完成だ。こんなとこまで連れてきて、一体なにする気だ!? 早く外せよ!」
七星は不気味な笑みを浮かべて鎖を引っ張る。手も拘束されているので抵抗できずに体を引き寄せられる。
「外さないって言ってるじゃん。解放する気はないよ♡」
触れそうなぐらい顔を近づけられた。緑色の目が俺を捉えている。目がマジだ……! 鎖で繫がれていて、手には手錠。逃げようがない。
七星が俺の頬を撫でる。心なしか息が荒くなっている。
「今すぐ食べちゃいたい……♡」
なに!? 食べるってなにを!?
なんだ、この圧力。身の危険を感じているのに、逃げ出さないといけないのに、体が動かない。
食べるって、もしかして俺を……!?
「……と危ない危ない。まだ食べちゃダメだ。すぐに食べたら勿体ないもん」
もうダメだ、と目を瞑った瞬間、七星の手が離れた。
た、助かった……!?
「今はまだ、混乱する由宇くんを見たいからね。堕とすなら、過程をじっくり楽しまないと……♡」
「は?」
全然助かってない。こいつ、見た目はかよわくて可愛いウサギみたいでも中身は肉食のケモノだ。
ここから脱出するまで危険しかない。
「とりあえず、そこのソファでくつろいでてね」
狙うような表情はなくなり、屈託ない笑顔で七星が指を差す。ソファは鎖の届く範囲にあった。
「くつろげるか!」
俺はその場に座り込んだ。
「も~頑固だなあ。掃除はしてるけど元がボロいからそんなとこ座ったら汚れるよ? 飲み物いれてあげるから、機嫌なおして?」
機嫌なんかなおるか!と抗議しようとしたが、めんどくさいのでやめた。
部屋の端に古い簡易的なキッチンが備えてあり、水道とコンロがひとつだけあった。七星はそこまで移動して、準備をはじめた。
「紅茶?コーヒー?それ以外にもあるけどどうする?」
「いらない」
「俺はコーヒーの気分だから由宇くんも一緒でいい? あっ、でも手錠してるから飲めないかぁ……」
俺の言葉を無視して七星はひとりごとを言いながら給湯器に水をそそぎ、マグカップを2つ用意している。
いらないって言ってるのに……
「この部屋、なんなんだ?」
七星がコーヒーを用意する間はなにもしてこないだろうと思い、ひとまず気になっていたことを聞くことにした。
「理学部の成績優秀者には得意分野の研究をするために特別に部屋がもらえるんだよ。この建物の5階は全部それ用。……20部屋ぐらいあったかな。誰が使ってるかは知らないけど、部屋の主が卒業したら他の学生に譲渡される。……あ、お湯沸いた」
七星は沸いた湯をマグカップに注ぎながら淡々と答えた。
「え、お前成績優秀者ってことか?」
「そ♡ 俺はめちゃくちゃ優秀なの。いろんな薬を研究したり、開発したりしてる」
なるほど。だから手前の机に大量の実験器具が置いてあったのか。本もたくさん並んでたしパソコンのそばにも積んであるし……
こんなやばいことやってるのに、ちゃんと勉強してるんだな。
いや、見直してる場合じゃない。早く逃げる方法を考えないと。
「コーヒーできたよ。砂糖とミルクはいれる派?」
「あ、じゃあ頼む……」
「はーい♡ なんか新婚さんみたいな会話だねえ……」
七星はごそごそ棚をあさって砂糖とミルクを探している。
「うーん、どこやったっけ……そもそもあったっけ……?」
って、普通に会話してた!! なにが新婚だ!! 監禁しといて!!
とにかく、七星を説得して解放してもらうのは無理そうだ。いくら外せって言っても聞く耳を持たない。どうにかして脱出しないと……鎖、外れないかな……
首でぐっと引っ張ってみるが、びくともしない。くそ……手が後ろだからうまく体が動かせない……
そのとき、黒い物体が視界に入った。
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