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狂愛は誤解を招く

「な、七星? 聞こえてるのか?」 「うん、聞こえた。由宇くんの声」  七星はこくんとうなずいた。俺の上に乗ったままどいてはくれないが、ひとまず会話ができるようになった。それだけでも良しとしよう。 「いきなりお前が話聞かなくなったから焦った……」 「俺もびっくりしてる。自分の意思で止められなくなってた」 「怒ってたんじゃないのか? 綺麗って言われたのが嫌で俺に仕返ししようと……」  七星は首を振り、顔を赤くしながら目をそらした。 「怒ってないよ、だから謝らないで。その、嬉しくて……」 「は?」  え、嬉しかったのか……? なんで……? 嬉しいと逆に黙るタイプなのか……?  ますますわからなくなった。  七星は照れくさそうに話し出した。 「嬉しくて、由宇くんのこといっぱい考えすぎて、気持ちが昂って……脳がオーバーヒートしたんだと思う。理性が焼き切れた感じになって……気がついたらあんな状態になってた」  こっわ……  いや、なんか恥じらってるけどワードが恐ろしくてどう反応していいかわからん……  七星は胸に手をあてて呼吸を整え、俺の目を真っすぐに見た。 「ありがとう、由宇くん。止めてくれて。あの状態のまま由宇くんを襲うのは俺としても不本意だったから……」  七星は少し困ったように笑っていた。こいつから礼を言われるなんて思ってなかった。不本意、ということは襲う気はなかったのか。  それならよかった……訳わからないまま食われることは無さそうだ。 「まあ正気に戻ったんならよかったよ。……とりあえず早くどいてくれ」  それでこの流れで解放してもらおう。  なのに、七星は俺の上に乗ったまま話を続けた。  どけって言ったよな……!? 「止めれなかったら、由宇くんはあのまま俺に襲われて、あんなことやこんなことされてドロドロになってたよ。ゆくゆくはそうするつもりだけど…… ほら、俺は過程を楽しみたいって言ったじゃん」  ……ん? いい感じにまとまりそうだったのに、雲行きが怪しく…… 「さっきの状態だと過程もあったもんじゃない。由宇くんの乱れる姿を楽しむ理性もないまま、いっきに最後までいっちゃうとこだった」 「いや、あの、どけって……」 「どかない」  目の前のケモノは俺の腹に指を這わせて笑った。  こいつ……っ! 「やっと調子が戻ってきた。今度は暴走しないように気をつけよう。俺との時間、楽しもうね……由宇くん♡」  前言撤回。襲う気満々だし食う気も満々じゃねぇか……! さっきまでのしおらしさはどこいったんだよ……  本当になんなんだ、こいつは。  なにが目的で俺を食おうとするんだ。 「さて、まずはどうしようかなあ……?」  昔から七星のことがわからなかった。 「昔も俺に嫌がらせしてきたよな。今こんなことをするのも、お前にとっては嫌がらせでしかなくて、嫌いなやつをいじめて楽しんでるのか?」 「えっ……?」  嫌がらせをしてくる理由も、俺にしかしなかった理由も。  今、顔をゆがめた理由も。 「いくら俺のことが嫌いだからって……ここまで……首輪つけて監禁してき、キスまでするか!? さすがにやりすぎだ! そこまで嫌いなんだったら、俺に関わらなくていいだろ! 無視でもしてろよ!」  わからなくなって、全部言った。他人の気持ちなんていくら考えようがわかるわけがない。  七星が俺のことを嫌ってる、というのも予想でしかない。  でもそれ以外にこんなことをする理由が思いつかない。嫌いだから嫌がらせをしておもしろがる……七星のなかではそういういじめなのかもしれない。 「……それは誤解だよ」  七星は眉をひそめた。 「は……? 嫌がらせじゃないんだったらなんなんだ」 「俺は由宇くんのこと嫌ってない」  食い気味に答えられた。 「え、そこから!?」  根本から違うのか!? どうも話が噛み合っていない。 「……あの頃のことはちょっと後悔してるんだ」  七星は肩を落として、目を伏せた。 「もう少し別の方法があったはずなのに、小学生の俺はガキだったからなあ……好きな子にはちょっかいかけたくなるお年頃だったんだよ」 「どういう意味だ……?」  俺の言葉に顔をあげた七星はきょとんと首を傾げた。 「まだ気づかない?」 「なにに……!?」 「由宇くんの鈍感……」  赤い顔が引き寄せられるように近くなる。照らす明かりが蛍光灯だろうと、七星の髪と目はキラキラしていた。 「好きなんだ、由宇くんのことが。小学校のころからずうっと……」 「え、……っ!?」

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