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音石七星はこじらせている
ん!? 好きって……俺を!?
「いやっ……え!? う、うそだろ!?」
「ほんと」
もう1度断言されて、言葉をつまらせた。
「会ってすぐに伝えようと思ってたんだけどねえ……いざとなったらちょっと恥ずかしくて」
覆いかぶさる七星の目は吸い込まれそうなほどまっすぐで、真剣だった。
「でも、もう恥ずかしくなくなった。何回だって言うよ。由宇くん、大好き」
「何回も言わなくていい!」
「あはは!赤くなってる! かーわいい♡」
顔を隠したかったけど、あいにく手は動かせない。俺は顔を背けることしかできなかった。
何回も好きだと言われて恥ずかしくないやつはいないだろ……!!
七星は体を起こし、俺に問いかけた。
「覚えてる? 小学校で、はじめて同じクラスになったときに由宇くんが言ってくれた言葉」
10年も前のことだ。考えてみたが、全く思い出せない。
黙る俺を見かねてか、七星は続けた。
「俺の髪と目が綺麗だって」
「えっ……」
ーー同じだ。さっき俺が言った言葉と。
「だから、嬉しかったんだ。由宇くんが無意識で言ってたとしても、それがキッカケだったから……」
ずっと覚えていたのか……言った記憶はないけど、昔も今も七星の髪と目が綺麗なのは事実だ。
「離れてから気づいたんだ。由宇くんのことが好きだって。ずっと会いたかった。小学生の頃は純粋な好きだけだったのになあ……その気持ちだけだったのに」
乱れた息が耳元にかかる。離れていた距離はいつのまにか触れそうなほど近くなっていた。
「今、由宇くんが欲しくてたまらない」
「……ッ」
首輪の下あたりに生暖かい舌が触れる。身を動かしたらすぐにでも噛みつかれそうだ。
「お前が俺のこと好きなのはわかった。でも、好きな相手にこんなことして本当に楽しいのか!? 俺には理解できない……!」
人を好きになる感覚が、俺にはわからない。踏み込みたくないから、好きな人は作らないようにしてた。
でも、好きになった人のことは大切にしたいって思うもんじゃないか……!?
「好きだから、だよ」
七星の細い指が俺の頬を撫でると、ゾクゾクと寒気がした。
「好きだから、こんなことをしてでも気を引きたいんだ。俺だけを見ていてほしい」
蕩けた緑の目がじっと見つめている。
こんなの過剰すぎる。狂ってる。
「今、俺のこと怖いって思ってる? 由宇くんはすぐに感情が表にでるよね。やっぱり昔から変わってないな……怒ったり照れたりするとすぐ顔が赤くなるし、コロコロ表情が変わるし……」
俺の頬を撫でながら、七星は話を続ける。
「いくら他人との間に壁を作ろうが、嘘で固めようが、素の由宇くんは変わってない。感情豊かで無邪気で、純粋だ」
「なんで知って……」
「話しかけたときに昔と違うなって思ったからカマかけたんだけど……当たり?」
七星は見透かしたように笑った。
「からかいがいがあってかわいいなあ。だから俺みたいな男に好かれるんだよ」
「お前が俺のことを好きでも、俺はお前が嫌いだ。昔っからな」
「知ってるよ」
嫌悪を伝えても、それでも笑っていた。なにがそんなに楽しいんだ。
「ならなんで……」
「由宇くんは誰にでも笑顔だよね。俺は由宇くんの嫌がってる顔や怒ってる顔が特に好き。俺だけに向ける由宇くんのその表情……敵対心剥き出しのその目……」
七星の目が更に欲情に染まる。
「俺のものにしたい。由宇くんの特別な顔も場所も、もっと見せて……♡」
絶対おかしい、狂ってる……!
こいつのものになるなんて絶対に嫌だ……!!
「これが10年分の想いをこじらせた結果だよ。じゃあ、続きしよっか♡」
「え、待て、なんの続きだ……」
首元から腰まで、体のラインを七星の人差し指が這うと、全身をゾクゾクとした感覚が襲った。
「さて、どうしようかな……由宇くんの嫌がる顔も好きだけど……」
「なにする気……んッ!?」
ついに七星の指が服の中に入りこみ、腹を撫でた。
嘘だろ……!? 嫌だ……!!
「色っぽいところも見たいんだよね。よがって……喘ぐところ」
そのとき、廊下から話し声が聞こえた。声はだんだんと近づいてくる。この声は……
「ちっ……来るのは予想してたけど、思ったより早かったなあ……」
七星は不機嫌そうに近くのガムテープを手に取り、乱暴に俺の口に貼った。
「んっ!?」
「俺もあいつらと話したいんだよ」
ガムテープ越しに七星の指が触れる。
「由宇くんはちょっと黙っててね♡」
声が届かない、もどかしい。
すぐそこに助けに来てくれてるのに。
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