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幼なじみにはお見通し

「由宇、顔赤くないか?」 「そうか?」  ーー七星の件から数日後。  1限目が終わり、教室を移動しようと立ち上がると隣に座っていた翔太に呼び止められた。 「……おでこ見せて」 「え、熱なんてないって。体調はいつも通り……」  翔太は静かに、でも強く俺を見据えている……   そのまま有無を言わさず体を引き寄せられ、大きい手がおでこに触れた。その後は両手首をぎゅっと握られる。  確信したのか翔太がうなずいた。   「やっぱり熱があるな」 「ほんとか? 朝は何ともなかったんだけど……」  いつのまにか熱が出てたのか……自分でも気づかなかった。瞬きをしながらじっと翔太を見ると、はっきりと即答された。 「お前は自分で気づくのが遅いからな」  お見通しだな……  俺は昔から、いつのまにか熱が悪化していて倒れることがしょっちゅうあった。  俺が気づくよりも先に翔太が気づいて保健室に連れていってくれたりしてたな……  最近は熱を出すことも少なくなってたんだけど…… 「ひどくなる前に家に帰ったほうがいい。送ってく」  翔太が俺のリュックも抱えて立ちあがる。 「まだ全然熱ひどくないし、普通に歩けるからひとりで帰れるよ」  あのとき……七星に捕まったときは迷惑じゃないって言ってくれたけど、それでも翔太に迷惑かけたくない。  心配をしてくれるのは嬉しいけど、俺は翔太に世話になりすぎている。なにひとつ返せていないのに。  俺は翔太が持つリュックを掴んだ。 「治ったら、翔太の講義のノート見せてほしいし、な?」  目線を上げて、目を合わせた。  他人に頼みごとするのは苦手だ。だから翔太ぐらいにしかノート見せてくれなんて頼めない。  少しの間の後、翔太は深くため息をついた。 「……帰ったら俺に連絡してくれ」  その言葉にうなずく。  そもそも、七星の一件があってからさらに心配されるようになった気がするし、距離も近い気がする。 「気をつけて帰れよ。講義終わったら行くから」 「うん、ありがとう」  翔太はまた、いつも通り俺の頭を撫でた。  ……俺の思いこみかな……?  ようやく家までたどり着いた。  帰り道を歩いているとだんだんと熱があることを実感した。寒気もしてきたし体も重い。翔太に言われなかったら倒れてたかもしれない。 「そうだ、翔太に連絡……」  靴を脱ぐ前にスマホをポケットから出し、ついた、とだけ送信した。長い文章を打つ気にはとてもならない。  あ……今日は父さん帰るの遅くなるって言ってたな。宇多にも連絡しておこう。スマホをしまうのをやめて宇多にも短くメッセージを送った。  頭がぐらぐらする……  はやく着替えて寝よう。  靴を脱ごうとしたが、バランスがうまくとれなくてそのまま玄関に倒れこむ。  あれ……? 体が重たくて起き上がれない……寒いし眠い……  意識が朦朧とする中、落としたスマホの画面に着信の文字が見えた。相手は…… 「れ……い……?」  震えるスマホを手に取ることはできず、意識は途切れた。

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