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揺れ動く劣情*side玲依
でもここで何もしないまま由宇を見つめてるだけじゃダメだ。ここまで来たんだ。
今の俺にできるのは看病すること。早く由宇の調子がよくなるように……
食材を買ってきておいてよかった。少しでも何か食べておいた方がいいし、由宇の目が覚めたときのために食べやすいものを作ろう。
そう決意して立ち上がろうとしたとき、ふと気がついた。
由宇の服……パーカーだけどこの格好じゃ寝にくいかもしれないし、着替えた方がいいよな……
着替えどこにあるんだろ、と辺りを見渡す。
……きがえ?
体温が急激に上がる感覚がした。握りこんだ拳が汗ばんでいく。
え、着替えさせるの、俺が……!?
ってことは由宇の体を見れる……!? 耐えれる……!? なんというご褒美イベント……!?
いやいや、なにを考えてるんだ。不謹慎すぎる。由宇は苦しい思いしてるのに……
というか着替えがどこにあるのかわからないし……え、あそこのクローゼット開けていいのか!? 由宇の匂いが染みついた服とかパンツとかがあの中に……って俺のバカ! 想像するな!!
欲を振り払おうと首を振っても、いつまでもついてくる。
ど、どうすればいいんだ……!?
心臓がドクドクと劣情に揺れ動く。頭の中では天秤がゆらゆら傾く。
由宇の看病のためとわかっていながらも興奮している。
こんな状況なのに最低だ、俺……! ごめん由宇……もっと健全な男になるから嫌わないで……!!
正座をしてグルグルと考えていると、後ろに気配を感じた。振り返ると、ドン引きした宇多くんがドアから顔を出していた。
「えっ、俺、声に出してた!? も、もしかして聞いて……」
「全部は出てないだろうけど一部は出てたよ」
淡々と告げられ、俺の葛藤を全てこの子は察している、とすぐにわかった。その瞬間頬が燃えるように熱くなった。
「申し訳ございませんでした」
欲にまみれた俺は反射的に顔を床に打ちつけた。それはもう素早い土下座。
最低すぎて泣きたい……
「土下座までしなくていいよ。顔あげて」
降ってきたのは予想外の言葉だった。
怒られて軽蔑されてもおかしくないのに。
真っ赤になっているであろう顔をあげると、宇多くんはテーブルに水を置きながら複雑そうな顔でこちらを見ていた。
「本当に由宇のこと好きなんだね……」
「そう、めちゃくちゃ好きなんだよ!! だからこんなときでもやましい気持ちが止めれないんだよ!! 最低な男でごめんなさい!!」
気持ちも言葉も止められなかった。由宇の迷惑にならないように、小声で懺悔した。
「最低だけど、でも、それでも好きなんだよ……」
「そこまで言わなくていいって……玲依さん正直すぎ……こっちまで恥ずかしくなる」
それは由宇がいつも言ってる言葉と似ていて、やっぱり兄弟なんだな、と思った。
「じゃあ着替えさせるけど、どうする?」
「退出します……」
宇多くんの言葉には見たいんでしょ?の意味を含んでいるんだろう。でも今こんな状況で見てはいけない。反省しよう。
頷いた宇多くんはクローゼットを開けはじめた。後ろ髪を引かれつつ、ドアを閉めようとしたとき、やるべきことを思い出した。
「そうだ、キッチン借りてもいい?」
「いいけど……?」
「たまご雑炊とか食べやすいものを作ろうかと思ってひと通り材料は買ってきたんだ。由宇、なにも食べてなさそうだし」
首を傾げていた宇多くんが驚いたように目を広げた。
「……ありがとう、お願いします」
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