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知れば知るほど好きになる*side玲依
「由宇! 大丈夫……!?」
「なんで、おまえが……?」
由宇は途切れ途切れに話しながら俺と目を合わせた。瞳は潤んで赤くなっている。
布団から見えた由宇の左手を握ると、まだずいぶん熱かった。
「おれ、たおれて……」
「俺が運んだんだよ。本当に心配した……」
「そっか、ありがと……」
苦しそうだけど笑って、弱々しく手を握り返してくれた。振り払われるかと思ったのに……熱があるからかな、少し素直になってる……?
お礼を言われた、笑ってくれた。
不謹慎なのはわかっていても、それだけで心が躍ってしまう。
「ひとりで無理しないで。困ったときは俺を頼って……」
「……にがてなんだ、頼るの……」
やっぱり、そうなんだ。
由宇は目を背けて、空いている手で顔を隠した。
「よわいところを見せたくない、迷惑かけたくない、面倒って思われたくない……」
消え入るほどの小さい声で、うなされるように、つぶやいた。握っている手は少し震えていた。
由宇は全部ひとりで抱えこんでいる。ひとりで解決しようとしてる。助けてあげたい。
まだ、信頼が足りないのはわかってる。
今の俺には想いを伝えることしかできないから……
「俺は由宇に頼られると嬉しいよ。由宇のこと、全部知りたいんだ」
「なんで……」
手の隙間から見えた綺麗な瞳が俺を見つめて揺らいだ。
なんで、と聞かれてもそんなのひとつに決まってる。
「由宇のことが好きだから」
知れば知るほど好きになる。君に信頼されたい。守りたい。
「おまえほんと変わってる……恥ずかしいやつ……」
そう言って布団をかぶった。照れてるんだろうか。なのに左手はずっと握ってくれている。もうめっちゃかわいい……しんど……
はっ、そうだ! 雑炊のこと忘れてた!
「由宇、お腹空いてない? 雑炊作ってきんだけど……」
少し沈黙があった。
もう1度そっと呼びかけると布団がモゾモゾと動き、ゆっくり体を起こした。
「食べる……」
ジャージ着てる……! かわいい……!!
……って、また思考が別方向に!
机に置いた雑炊を持ってこないと。でも俺の片手は由宇の手を握っていて、由宇からも握り返されている。……ような気がするのは思いこみだよな。
「これじゃ食べれないし、手離すね……ずっと握っててごめん……」
「ん……」
ちょっとだけ由宇の声が残念そうに聞こえたのも、俺の思いこみだろう。
宇多くんが小さい土鍋を用意してくれたおかげで、まだ雑炊は温かかった。ひとくち分をすくい、由宇の口元にそっとのばした。
「はい、あーん……」
……なんてノリで言ってはみたけど、断られるに決まって……
「あーん……」
ーーん!? えっ!? あーん!?
由宇は俺が差し出したスプーンをためらいなくくわえた。よく噛んだあと、ゴクリと喉を鳴らした。その光景は一瞬にも永遠にも感じた。
「やっぱりおまえの作るものは美味いな……」
ええええええ!? 笑っ……ご褒美!?
褒めてくれて、しかもあーんまで!? いいの!?
由宇はもう一度口を開いた。尊さを処理しきれずに固まっていた俺は由宇にせがまれてやっとスプーンを動すことができた。
まさかのふたくち目……!? めちゃくちゃ手が震えた。
やばいやばいやばい、この状況。一生続いてほしい……いやそれは心臓が耐えきれない。口から出る。
「ゆ、由宇……今日、なんだか素直だね?」
「そうか?」
雑炊を咀嚼しながら、きょとんと首を傾げている。
無自覚!? 絶対、素直になってる……!
反則……! かわいすぎる……っ!
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