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俺のこと、どう思ってる?*side玲依
「ごちそうさま……美味かった」
「こちらこそとても貴重なお時間をいただきありがとうございました……」
「?」
由宇と同時に手をそろえた。
食べ終わるまで、あーんは続いた。俺の手は終始震えていた。
途中、喋りかけると今まで聞いたことがないぐらい素直な言葉が返ってきた。嬉しくてかわいくて、たくさん話してしまった。不謹慎なのはわかってる。
素直でかわいいけど……由宇が苦しんでることの方がつらいから、はやく元気になってほしい。
「食べたし、寝るわ……」
「ゆっくり休んだらよくなるよ」
頭を撫でると、うなずいて由宇は再びベッドにもぐった。
「ねぇ、由宇はさ……俺のことどう思ってる?」
子どもをあやすみたいに布団をポンポンしながら、気になっていたことをポロッと口にだしていた。
俺はなんて質問を……! 今の由宇は正直に答えてくれる。もし嫌いなんて言われたら立ち直れない……! やめとけばよかった! 調子乗りました! ごめんなさい!!
由宇は顔を覗かせ、うーん、と考えている。せっかく考えてくれてるのに今さらやめてなんて言えない……! 大人しく正座をして処刑を待っていると、由宇が口を開いた。
「迷惑なやつ」
「め、迷惑……」
嫌い……ではないけどやっぱり迷惑って思われてたのか……これはショックだ……
迷惑って思われていても諦めたくない。涙目になりながら迷惑にならない接し方を頭をフル回転させて必死で探した。
ーーでも、由宇の言葉には続きがあった。
「どんだけ突き放してもあきらめないし、恥ずかしいことばっか言うし、まっすぐすぎるし……
おまえといると、なにかが変わっていく気がして、こわい。今までこんなこと思ったことなかった」
「由宇……」
「裏切られるぐらいだったらずっとこのまま、愛情なんていらないって思ってたのに……
最近、ちょっとうれしいんだ、ばか正直なおまえに、好きって言われるのが……なんでだろうな……」
由宇は顔をうずめた。声は震えていた。
「れいなら……信じれるかもしれないな……」
「っ……!」
絶対に振り向かせるって決めていたけど、不安になるときもあった。嫌われてるんじゃないか、これ以上由宇に近づけないんじゃないかって。
でも、ちゃんと進んでいる。俺の想いは届いてる。無駄じゃなかった……嬉しくて泣きそうだ。
由宇が人を信じれないのは、親の離婚が原因かもしれない。愛を誓ったふたりが目の前で離れ離れになった。だから永遠に続く気持ちなんてないって思った……
トラウマになってもおかしくない。
それが子どもの頃ならなおさら。
聞いたら、話してくれるかな。俺は由宇のこと知りたいんだ。出会うまでの年月分。全部、全部。
「由宇は……」
言葉を紡ぎかけて、迷った。
今ならそのことを話してくれるかもしれない。けど、こんな状態の由宇に聞くのはズルだ。間違ってる。今の俺じゃ足りないから、話してもらえないんだ。
ちゃんと由宇の意思で、由宇の口から聞きたい。
「由宇、聞いて」
俺の想いは、さらに強く固まった。由宇の手を両手で包む。
由宇に心から信頼してもらえるように、少しずつでも近づけるように……
「俺は絶対に由宇を裏切らない。これからもずっとずっと、由宇のことを愛し続ける。そばにいる。由宇がどんなことでも話せるような存在になる。……だから」
真っ直ぐ、揺らぐ瞳を見つめた。
「俺を信じてほしい、由宇」
我ながら、プロポーズかと思うぐらいキザなセリフだと思う。それぐらい強い想いがある。
由宇は目を開いて何回かまばたきをしたあと俺から視線を外し、
「う、うーん……ええっと……」
ためらいながら宙を見つめた。
すごく考えてくれてる……!? 無理ってバッサリ切られることも想定してたけど、まさかこんな真剣に思ってくれてるなんて……
少しの沈黙のあと、由宇の目線はまた俺に向いた。
「い、今すぐは……ちょっと……」
熱で赤くなった顔をさらに赤くさせている。
「ふっ」
「え、なんでわらうんだ……」
それがたまらなくかわいくて、自然と笑いがこぼれた。
人を信じれないって言ってるのに、人の想いを無下にしない。やっぱり君は優しいよ。
「ゆっくりでいい。どれだけ時間が経っても俺の想いは変わらないから……
これからもっと由宇に俺のことを知ってもらって、俺も由宇のことを知っていきたい。俺は絶対に由宇のこと、諦めないよ」
さらに強く手を握った。
由宇は目をぱちくりと開いた。それから小さくうなずいて、笑った。
「じゃあまた……返事する。ありがとう……れい」
「こちらこそ、俺と出会ってくれてありがとう。由宇」
安心したのか、由宇はゆっくりと目を閉じた。
いっぱい喋らせてごめんね……はやく治してほしいのに、俺が無理をさせてしまった。
俺がいるとゆっくり休めないかもしれない、そう思って手を離したとき閉じられていた瞳が再び開いた。
「ど、どうしたの……まさか寝れない!? 俺がいるから!? すぐに退出します!」
「ちがう……れいに思ってること、もうひとつあったんだ……」
まだあるの!? さっきから怒涛の供給にいっぱいいっぱいだ。
由宇って思ってたより俺のこと考えてくれてる……!?
「いぬみたい」
「い、犬……?」
聞こえた言葉はあまりにも予想外で、口がぽかんと開いた。
由宇はぼうっと天井を見ながら話し続けた。
「大型犬っぽい……ゴールデンレトリバーかな……」
「け、犬種じゃなくて、犬種じゃなくて」
「れい」
布団から出た腕がちょいちょい、と手招きした。混乱したまま顔を近づけると、伸ばしていた由宇の手はそのまま俺の頭に触れた。
「はは……やっぱり、髪ふわふわだ……」
かわっ……!? 笑っ……!?
熱で力が入らないんだろう、弱々しく頭を撫でられる。触れたところから熱が伝わってきて、全身が熱い。
突然のことに脳が追いつかない。さっきから脳はずっとパニック状態だ。
由宇が、笑いながら、俺の頭を撫でている……!? しかもほとんどゼロ距離。
混乱でグルグルと回る頭がなんとか状況を理解しはじめた。
興奮で叫びながら床を転がり回りそうだったが、脳内妄想だけで留めた。そんなことしたらせっかくのいい雰囲気が台無しだ。
犬扱いされてるのはわかってるけど!! いやもうなんでもいいから由宇が撫でてくれてるってことが最高にやばい。
な、なにか喋らないと……せっかく由宇が撫でてくれてるんだ。
「あの、抱きしめていい? というかここに潜り込みたいです」
欲丸出しの言葉しか出てこなかった。台無しにしました……
「だめ」
「ハイ……」
そこはしっかりと否定された。
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