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素直なおねだり*side玲依

「あの、由宇、俺は食器片付けて帰るね。無理せずにゆっくり休んでね」  満足したのか、由宇は俺を撫でるのをやめた。ここでもう帰ろうと思い立ち上がった。なんかいろいろと我慢の限界だ。  そのとき、とても小さく俺を呼び止める声が聞こえた。  顔を覗くと由宇がこちらに手を伸ばした。心なしかさっきよりも頬が赤い。 「……寝るまで、つないでて……」 「……ん、えッ!?」  一瞬で全身に熱がまわった。尊さを処理できずに脳は停止している。でも心臓は痛いぐらいに速くて、言葉の意味を理解していた。  え、聞き間違い!?  手繋いでてほしいって聞こえたけど!? ほんとに!? 俺の妄想じゃないよね!?  衝撃すぎて答えられずに固まっていると、由宇が手を引っ込めかける。 「いやならいい……」 「いっ嫌なわけ……っ あの、ちょっ……びっくりして……っ ハイ、喜んで!!!」  由宇の手のひらを両手でふわりと握った。  あああ! 嬉しすぎて力がうまく入らない!!  いや、入らなくてよかった! めちゃくちゃ握り締めるとこだった!!  人の体温に安心したのか、由宇はふわりと笑う。 「はは……おれより汗かいてる……」 「だめだ、かわいすぎる……」  汗だらけの手がまた震えはじめる。  頑張れ俺!! 耐えろ俺!! 「……ケーキは食べたことあったけど、おまえのごはんってはじめて食べた……」  そういえば、とうなずく。料理を作る機会って今までなかったかも…… 「ケーキもうまいんだから、ごはんも食べてみたいって……おもってた。おもったとおり、うまかった……」 「あ、え!? あり、ありがとう……」  動揺して声が裏返りまくった。恥ずかしいのでこれは忘れてほしい。  さっきからめちゃくちゃ褒めてくれるんだけど……!? いいの!? こんなに浴びていいの!?  乱れる呼吸をなんとか整えていると、由宇が俺の目をじっと見つめていた。 「なあ、れい……また作ってくれるか……?」 「っ よ、喜んで……」  祝福の鐘が頭の中で鳴り響いた。プロポーズ……!? けっ、結婚……!?   なに、そのおねだり……尊すぎない……? 心臓がやばい、大丈夫か……?  あ~~……毎食由宇にごはんでもケーキでもなんでも作ってあげたい……! それで由宇の体全部俺の作った食べ物で構成したい……!! あ、うわ、これはさすがに言えない。ドン引きどころで済まされない。自分でも引いた。  握った手を震えさせていると、すぅすぅと寝息が聞こえてきた。  ああ……寝顔……かわいい……  ずっとここにいたいけど、これ以上抑えられない。このままじゃ熱で抵抗できない由宇を無理やり……由宇のあんな姿やこんな姿が浮かんでは消える。  ダメダメ! それは絶対にダメだ! 想像するな、俺の脳! 「由宇、おかゆ食べれたよ。宇多くんもいろいろとありがとう」 「こちらこそ、由宇の面倒見てくれてありがとう」  片付けを終えて、部屋にいる宇多くんに声をかけた。こっちまで近づいてぺこりと礼をしてくれた。 「由宇、喜んでた?」 「あっ……えっと……たぶん……いやあれは俺が得してばっかりで……うん、その……」 「よかったね」  顔を真っ赤にしながら視線を彷徨わせてしまう。宇多くんは察したように半笑いでうなずいた。 「じゃあ、俺は帰るね。由宇にお大事にって伝えて」 「もういいの?」 「うん、もう限界です……」  宇多くんに手を振り、由宇の家を後にした。はやく治りますように……  でも……いやぁ……不謹慎だけどほんっとにかわいかった……! 素直すぎて……反則……あれはやばい……  由宇との会話を浮かべながら帰路を歩いていたところで、ふと気がついた。  ……あれ? なにかを忘れているような。 「……あっ」  そうだ……! き、キスだ……!!  俺は由宇が寝てる間に勝手に……!  完全に言うタイミングを逃した。っていうか素直な由宇がかわいすぎてキスしてしまった罪悪感がどっかいってた。  最悪だ、俺……!怒られるに決まってる。嫌がられるに決まってる。嫌われて口聞いてくれないかもしれない……!!  どうしよう……!?

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