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布団の中には奴がいる

 よく寝た……  枕元のスマホを確認すると17時が表示される。  確か玄関で倒れて……倒れてからの記憶を順に思い出す。そういや玲依が来てて、ここまで運んでくれたって言ってた気がする……  雑炊作ってくれたんだっけ……美味かった……あいつの作るもの全部美味いんだよなぁ……胃袋掴まれてるな。  うーん、他にも話したような……あんま覚えてないな……手、握ってたっけ? あと玲依が真っ赤で、必死だった……それはいつものことか。  でも昼よりは意識がはっきりしてきたし、だいぶ熱下がった気がする。治ったら玲依にお礼言わないとな……  無意識で寝返りをしようとすると、なにかに体が当たった。ベッドの中になにかがいる、と瞬時に理解する。首だけ動かすと、視界に飛び込んできたのは金色の髪だった。 「ん!?!?」  反射的に飛び起き、布団を勢いよくめくる。  ーー隣で七星が気持ちよさそうに寝ていた。ひなたで寝る猫みたいに。 「んん!? え!?」 「ん……」  声をあげた俺に気づき、ぼんやりと目を覚ます。 「由宇くん……起きたの?」  体を起こした七星はまだ眠いのか目元をこすっている。 「いやっ……なんっ…寝……っ」  言葉がうまく出ない。  七星は頬を赤く染めながら笑った。 「ああ……俺の腕の中で喘いでる由宇くん、最っ高にかわいかったよ……♡」  喉がヒュッていった。気が遠くなりながらも体に視線を移すが、かろうじて服は着ていた。 「は、ぁ……!? うそだろ……!?」 「うん、ウソでーす」  にっこり笑う七星の頭をベシッと叩いた。 「おっ……まえなあ……! 焦った……!」 「も~~いくら俺でも人の心はあるから病人を襲ったりしないよ」  クスクスと笑っているが、こいつならやりかねないと思う。 「由宇くんが苦しそうだったからぎゅってしてあげたくて……それでそのまま寝ちゃった。ベッド、いい匂いであったかかったよ……♡」 「勝手にもぐりこむな! 寝るな! 匂うな!」 「毎日一緒に寝てほしいなあ。俺と住まない?」  距離を詰めてくる七星を押し返す。 「お断りだ! っていうかなんで俺の家知ってんだよ!」  家を教えた覚えはないし、熱が出たことも言ってないのに……! 「ふふ、それは秘密……♡」  うわ、含みを持った笑み……こいつ絶対後つけて家調べてただろ…… 「しかも勝手に家の中に入って……不法侵入か?」 「弟くんに由宇くんの友達でーす♡って言ったら入れてくれたよ? 弟くん、由宇くんに似てるねぇ」  くそっ……! それ言われたら、宇多なら部屋に入れるだろうな……  まさかこんなことになるなんて…… 「ほんっと……おまえは……っ」  声をあげると、頭がぐらついた。倒れかかった体を抱きとめられる。 「もお、あんまり騒いだらダメだよ」  よしよし、とそのまま頭を撫でられた。 「くそ……誰のせいだと……! 帰れ……ひとりで寝かせてくれ……」  ふらつく頭で七星を押し、背をむけて布団をかぶった。ベッドから追い出す力はなかった。 「……そんな寂しそうな背中見せられたら放っておけないなあ」  七星の手がまた俺の頭を撫でた。囁くような優しい声だった。 「熱のときって人恋しくなるもんでしょ。俺が由宇くんのそばにいてあげる」 「いいって……おまえといると疲れる……」  ふふ、と笑った七星は俺に身体を寄せた。断っても聞きやしない。  でも、なぜか背中に感じるぬくもりに安心してしまう。こいつは危険なやつなのに。これも全部熱のせいだ…… 「かわいい、由宇くん……ずっとずっと、大好きだよ……」  七星からの重い言葉が降りかかる中、あたたまった布団で俺はすぐに眠ってしまった。

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