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幼なじみは心配する

 次に目を覚ましたときには、七星の姿はなかった。いや、あいつのことだ。どっかに隠れててもおかしくない。  布団の中をめくったり、クローゼットを開けたり、隠れることが出来そうな場所を見てもいない。部屋を見渡しても、物をあさられた形跡はない。    部屋の鏡で体中を確認しても襲われたような感じはなかった。  ベッドに潜りこんでただけ……!?   な、何もせず帰ったのか……よかった……と、胸を撫でおろす。  それと同時に、歩きまわれるるくらい気分が良くなってることに気づいた。  まだちょっと頭がぐらつくけど、明日は大学に行けそうだ。玲依にお礼を言わないと。  ……七星はベッドに潜ってただけだしいいや。  考えていると、ノックが聞こえた。 「由宇、調子どうだ?」 「翔太」  講義を終えた翔太はいつもの調子で部屋のドアを開けた。  ……が、鏡の前に立って腕組みしてる俺を見て顔をしかめた。 「病人は寝てろ。そんなところに立って……何してたんだ」 「あ、いや、これは……」  なんとなく七星のことは言いづらかった。話せば長くなるし、不用心だ!って怒るだろうし…… 「ね、寝過ぎて背中痛くなったから伸ばしてた……」 「……」  眉をひそめてじっと見られてる。嘘だってバレてるな、これ。  少しの間の後、翔太は大きくため息をついた。怒られる……! 「……まあ、思ったよりも元気そうでよかったよ」  怒号を覚悟して瞑っていた目を開く。翔太は床に座り、机に頰づえをついた。……怒らないのか……よかった。 「帰ってからずっと寝てたからな。だいぶよくなった」  翔太の斜め前に座る。 「熱あるってこと、気づいてくれてありがとうな」 「そりゃあ、わかるよ」  俺の言葉に微笑んだ翔太の手のひらが、頬に触れた。 「誰よりも由宇のこと見てるから」  いつもの翔太らしくない、妙に熱のこもった視線だった。真っ直ぐ、射抜くような瞳。  頬に触れたあたたかい手のひらから熱が伝わって、顔が熱くなってくる。照れくささを払いのけるように俺は声をあげた。 「はは……翔太が早めに気づいてくれたおかげで道では倒れずにすんだし……さすがに道で倒れるのは恥ずかし……」 「道では?」  あ、しまっ……  翔太の顔色が変わった。触れていただけの手は俺の頰を強くつまんだ。 「……ということは家に帰ってから倒れたんだな?」 「あ、あはは……」 「だから送るって言っただろ! 無理するなっていつもいつも言ってるのに……! 何かあってからじゃ遅いんだぞ!」 「いひゃ、いひゃい、ごめんって……!」  ……結局怒られた。  でも翔太の言うことももっともだ。外で倒れたら本当に危なかった。いくら他人に頼るのが苦手だからって何かあってからじゃ遅い。頰を引っ張られながら、自己嫌悪が湧いてくる。 「はんせいします……」 「ならよし」  頰を引っ張る手が離れた。ヒリヒリする頰をさすった。 「……反省してるし、頑張って頼れるようにしたいとは思ってるよ……でもなかなか……」  散々翔太には頼れって言われた。  本当にやばいときに頼れるように、少しずつでも慣らしておかないと……とは思うけど、なかなか自分の考えを変えるのは難しい。 「頑張って頼るのは違うだろ。由宇はもっと周りのやつのことを信用していい。由宇だって、誰かに頼られて悪い気はしないだろ? それと同じだ」 「……うん」  翔太は俯いた俺の頭を撫でた。不安になったときにはいつも撫でてくれているような気がする。 「すぐに考えを変えなくていい。ちょっとずつ意識してみればいいから」 「ありがとう……」  顔をあげると、翔太は優しく微笑んでうなずいた。  あれ? そういえば、こんな会話をさっきもしたような……?

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