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風邪の思い出

「じゃあ、ちゃんと反省した良い子にはこれをやろう」  翔太がそばに置いていた袋を俺の目の前に置いた。ごそごそと中に入っていた箱を開けてみる。 「あ、プリン! しかもケーキ屋のやつじゃん!」  美味しそうなプリンに自然と声が弾む。瓶には大学近くのケーキ屋のロゴが書いてあった。  箱から取り出し、付属のスプーンと一緒に自分と翔太の前に並べた。 「宇多には先に渡しといたから」 「なんかいつも宇多の分も買ってきてもらって悪いな」 「俺がそうしたいからいいんだよ」  軽く笑いながら翔太はプリンをすくった。笑い返してプリンを頬張る。 「あ~~美味い! やっぱ風邪のときはプリンだな。いつもより美味く感じる」 「それはよかった」  俺の中では風邪のときはプリンって決まってるんだけど……食べながら思い返してみると買ってきてくれるのはいつも翔太だった。 「なあ、翔太ってさ、俺が風邪引いたらいつもプリン買ってきてくれるよな」 「まあ……お前に言われたからな」 「え?」  思ってもない答えに間抜けな声が出た。翔太が手を止めてこちらを見る。 「覚えてないか? 小学校低学年ぐらいのころ、熱出したときにプリン食べたいって駄々こねたの」 「お、覚えてない……」 「プリン食べないと風邪治らない、買ってきて~って」 「なんだそれ!?」  自分のバカさが恥ずかしくて汗ばんできた。翔太は俺の反応を見て口角をあげた。 「由宇の父さんは由宇とまだ小さかった宇多の面倒を見るのに手一杯で買いに行けそうになかったから、俺が近くのスーパーで買ってきたんだ」  そのときはスーパーで買えるようなやっすいやつだったけど、と翔太が付け足す。 「そうしたらお前めちゃくちゃ喜んで、これから俺が風邪引いたときには絶対プリンを買ってきて、って」 「そ、そんなことが……バカじゃん、小学校の俺……」  全く記憶にないのは、熱のときのことあんま覚えてないからだろうな……他にも過去に恥ずかしいこと言ってそうでさらに全身が熱くなった。 「泣いて駄々こねてたからな」 「最悪かよ……恥ずかしすぎる……」 「いいよ、もう当たり前になってるし。プリン食べないと風邪治らないんだもんな?」  翔太はからかうように目を細めた。 「もっ……もういいだろ! 昔の話は終わり!」  翔太から顔をそむけて残りのプリンを口に入れた。  言った俺が忘れてるのに、それでも翔太は忘れずにプリンを買ってきてくれていた。  ほんと律儀だし、面倒見がいいし……  机に伏せながら片付けをはじめた幼なじみをじっと見ていると翔太は顔をあげた。 「よし、じゃあとりあえず風呂に入ってこい。湯は張っておいたから。プリン食べたばっかりですぐに晩飯食べれないだろ?」 「あっ、晩飯! 何も用意してない! 宇多、自分の分買ってきてるかな……」 「……そう言うと思って、あらかじめ宇多に聞いて買ってきておいた。うどんぐらいなら食べれるだろ。風呂入ってる間に用意しておくから」 「さ、さすがぁ……」  話しながらクローゼットを開けた翔太は俺の着替えをひと通り揃え、手渡してくれる。  ……やっぱり翔太には頭が上がらない。  風呂に浸かって汗を洗い流すとずいぶんスッキリした。  いつもの癖で髪を乾かさずにリビングに戻ると、風邪引いてんだからちゃんと乾かせ!って怒った翔太が手早く乾かしてくれた。  翔太と喋っていたのか、リビングにいた宇多はだらしな……って呆れた目でこちらを見てきた。  それから久しぶりに3人で晩飯を食べた。  昔は父さんの帰りが遅いとき、翔太の母さんが作ってくれたご飯を3人で食べたりしたな……  懐かしいことを思い出して自然と笑みがこぼれた。宇多に怪訝な目で見られたが、恥ずかしいので黙っておいた。

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