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風邪を引いた玲依
「あっ、尾瀬くん! 風邪治ったんだ。よかったね~!」
次の日、講義室に向かう途中で芽依と鉢合わせた。玲依にそっくりの満天の笑顔だった。元気すぎて気圧される。
「ああ、ありがと……今日は玲依じゃないんだな」
この講義のときはわりと玲依の確率が高い。調理科の講義はない日なんだと思ってたけど……
「あれ、尾瀬くんちょっと残念そう? なになに~? 玲依だって期待してた?」
からかうように笑って俺の肩をつんつんと押す。
「んなわけ……! 玲依に会ったら昨日の見舞いのお礼を言おうと思ってただけだ!」
芽依は、はいはいそうなんだね~、と言いながらさらにニヤニヤと笑った。楽しんでるな……!?
「で、今日玲依は大学来てるのか?」
「いやあ、それがねぇ……」
急に声のトーンを落とした芽依は呆れ顔でため息をついた。
「玲依、風邪引いちゃったんだよね……今日は家で休んでる」
「えっ、もしかして俺のがうつった!?」
「……うーん、それは違うんだ。玲依の自業自得というか……尾瀬くんは気にしなくていいよ」
うつしてしまったのかと焦ったが、キッパリと否定された。自業自得ってどういうことだ……?
「昨日玲依になにかされたりした?」
なにか……? と聞かれて首を傾げるも、心当たりがない。
「いや、特に何もされてない……と思うけど……玲依が来てるとき、熱高くてほとんど覚えてないんだよなあ……」
「やっぱ尾瀬くんが寝てるうちにしたのか……」
「え?」
小さく呟いた芽依の声は周りの音にかき消されて聞こえなかった。聞き返したけど、なんでも~?と、うまくはぐらかされた。
いかにも怪しくてじとりと睨むが、芽依は気にせず話題を変えた。
「そういえば私今日用事があってしばらく帰れそうにないからさあ……玲依の様子見に行ってくれない? たぶん寂しい思いしてると思うんだよね」
「え……」
それを言われると、しゅんと耳をふせた玲依の姿が思い浮かんでしまう。
芽依は勢いよく顔の前で手を合わせた。
「親も仕事でいないんだよ! それに朝から……というか昨日帰ってきてからずっとメソメソしてて……尾瀬くんに会ったら元気でると思うから! 玲依のためにも!」
この上目遣いのお願い顔……玲依にそっくりだ……! どうしても頭に玲依が出てきてしまう。双子め……!!
まあ……俺のお見舞い来てくれたし……雑炊美味かったし……俺のせいじゃないって言われても結局は俺のがうつってるわけだし、申し訳ない気持ちもある。
眉を寄せてぐるぐると思考を巡らせる。その間も芽依の瞳はうるうるとこっちを見ている。
「わかったよ……」
……結局折れるしかなかった。芽依の表情はどんどん明るくなっていく。まるで自分のことみたいに喜ぶんだな……
「やった、ありがと~!! 住所これね! よろしく!」
カバンのポケットから出てきた紙を強引に握らされた。用意がよすぎないか?
え、もしかして仕組まれてた……!?
芽依を睨むとウインクをキメられた。
「尾瀬くんて、玲依の顔好きでしょ。ということは、私のお願いにも弱いってことだよね~」
……これは絶対、仕組まれてた。
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