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風邪編エピローグ

 ーー次の日。  大学に着いた俺は講義室に向かって歩いていた。  結局、あのあと起きたころにはもう夜で。俺が目を覚ますと同時に玲依も起きた。 「泊まっていって! おねがい!」 「無理! ひとりでゆっくり寝てちゃんと治せ!」 「やさしい~~~~好き~~~~!!!!」  玲依の叫び声を聞きながら逃げるように部屋を出た。階段を降りるとリビングでテレビを見ていた芽依と鉢合わせる。 「あれ尾瀬くん、帰るの? 玲依の部屋に泊まっていけばいいのに」 「玲依とおんなじこと言うな! というか帰ってたんなら起こせよ!」 「幸せそうに寝てたから起こすの悪いな~って思って」 「なっ……!」  玲依と同じ顔で悪気なくにっこりと笑った。 「あれは玲依に引きずり込まれて……!」 「ははーん、そんなこと言ってぇ……玲依のこと、まんざらでもなくなってきたんじゃない?」  わざとらしくほほほ、とからかう芽依に背を向けて玄関を出た。  この2日間、いろいろあったな……  昨日の出来事を思い返しながら、通りに植えてある花を横目で眺めながら歩いていた。 「ゆ~~~~う!」 すると、前方からはつらつとした声が俺を呼びながらやってくる。 「もう元気そうだな」  駆けてきた玲依に声をかけると満面の笑みが広がった。バックに大量の花とキラキラが飛んでるように見えた。昨日弱ってたからか、倍以上に光ってる気がする…… 「すっかり全快しました! 由宇のおか、げ……」  いつものように出会い頭で玲依が俺の手を取ろうとしたが、横から俺に向かって何かが飛びついてきて、それは阻止された。 「由宇くん♡ 今日もかわいいねえ、結婚しよ?」 「うわっ七星! くっつくな!」 「音石!」  俺を抱きしめたのは予想通り七星だった。  金の髪と緑の目を太陽光にキラキラと反射させながら俺に引っ付いてくる。離そうとしてもなかなか離れない。 「ちょっ、さっさと由宇から離れろ……っ!」  玲依が手を伸ばして引っ張ると、七星は俺以外の存在に今気づいたみたいに玲依を睨んだ。 「げっ玲依くん、もう風邪治ったの? 丈夫だねぇ」 「昨日は精神攻撃どうも!」 「ぜんぜん効いてないし……その様子だとキスしたこと言ったんだ。由宇くんに嫌われなくてよかったね~?」  なんか物騒な話をしながらぐいぐいと引っ張り、やっと七星の腕から解放される。  玲依が間に割り込み、七星に向かって勢いよく指をさした。 「昨日は熱で情緒不安定になってたメンタルも復活したから! もうお前には惑わされない!」  高らかな宣言のあと、くるっと俺の方を向き両手を握られた。 「これも全部由宇のおかげだよ」 「いや俺なんもしてないし……」  玲依は少し首を振り、幸せそうに笑顔を輝かせた。 「由宇と話せたから元気でたんだ。だから由宇のおかげ。俺、もっともっと頑張るから! 由宇に好きになってもらえるように! 頑張る!」 「ハイハイ……それ昨日聞いたって」  ぎゅっとさらに強く握られ、真っ直ぐ見つめられて、照れくさくて顔をそらした。ほんのり頰に熱がのぼる感覚がした。 「照れてる……かわいい……」 「言わんでいいから!」 「む……なんか俺そっちのけでいい雰囲気になってるし……あ、」  いつのまにか由宇の隣を取られ顔をしかめた七星は視界の端にとある人物を捉えた。足取り軽やかに、そこに向かう。 「翔太くん、こんにちは」 「なんか用か」  あいさつぐらいしろよ、とつぶやいた後、七星は不敵な笑みを翔太に向ける。 「あの2人、なんか距離近くなってると思わない? うかうかしてるとやばいかもねぇ、俺もあんたも。実際のところどう思ってるわけ? 玲依くんのこと」  翔太はちらりと2人を見る。 「……」 「ふーん、無言かよ。それはそれで不気味だな。まあいいけど」  七星はくるりと背を向けて振り返り、舌を出して挑戦的に笑った。 「由宇くんを俺のものにした後のあんたの悔しそうな顔、楽しみにしてるから」  再び由宇に突撃していく七星を睨み、翔太は地面に視線をうつした。 「んなことわかってるんだよ……」  その苛立ちは誰にも聞こえずに消えていった。

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