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【番外】由宇の写真が見たい!①
ーーとある日。
七星は自分の実験室でコーヒーを飲みながらくつろいでいた。
「ふんふん~今日も由宇くんに会いたいなあ~~♪ まいにち会いたい、そして結婚……♪」
スマホをいじりながら自作の鼻歌を楽しそうに歌っていると、廊下の奥から足音が近づいてくる。近いな……と思った瞬間には仕切りの向こうのドアからバン!と大きな音がして、七星はスマホを落としそうになった。
「音石!」
よく通る王子様みたいな声が部屋に響く。顔は見えずとも、勝手に入ってきた男が頭に浮かんだ。
「玲依くん……ノックもなしに入ってくるとか非常識じゃない?」
仕切りからその男が顔を出す。こいつは言動も顔も王子様みたいにキラキラとしていて腹立たしい。
はぁ……と七星が呆れ顔でため息をつくと、
「あっ、つい……というかそんなこと思う常識がお前にもあるんだ」
「あります~~!」
失礼なことを言われ七星はふん!と顔を背けた。
「……で、なんでひとりでここに来たの? 俺を消しに? それとも消されに?」
「発言がいちいち物騒だな……そうじゃなくて、お前にその……頼みたいことがあって」
玲依は真剣な顔をしながら客用の大きいソファに座った。
「玲依くんが、俺に?」
ワケがわからない。恋のライバルにわざわざ恩を作りに来るなんてバカだと思う。
玲依は少し言いづらそうに声を縮めていたが、顔をあげ七星を見据えた。
「俺、由宇の小さいころの写真が見たい!! っていうか欲しい!!」
「……は?」
七星の可愛らしい顔が歪んだのも気にせず玲依は真面目な表情で話し出す。
「突然思ったんだ。今でもじゅうぶんかわいい由宇の小さい頃ってどれほど破壊力の高いかわいさなんだろうって……気になりすぎて昨日は寝れなかった」
「気持ち悪……」
七星はさらに顔をしかめた。
「こんなこと由宇に頼めないし、ドン引き顔が目に浮かぶもん。だからお前に頼みにきた。昔同じ小学校だったんなら持ってるだろ?」
「あんたプライドないの?」
「由宇のためならプライドなんか捨てる」
自分の常識ではありえないことをやってのける玲依のバカ正直さに七星は呆れを通り越して感心してしまった。
「はは、それ由宇くんのためじゃなくて自分のためじゃん。貪欲すぎ」
「それぐらい見たいんだよ!」
バカみたいなこと言ってるのに、真面目な表情で話す玲依を見ていると笑えてくる。
まあこっちの事情も話してやるか、と七星は玲依に向き合った。
「それがさぁ、俺は同じクラスだったときは由宇くんが好きだって気づいてなかったの。離れてからそれに気づいて……だから由宇くんの写真はクラスの集合写真1枚しか持ってないんだ。あのころの俺に由宇くんの写真は全部確保しろって言ってやりたいよ」
えっ、と玲依は小さく驚いたあと、哀れな目を七星に向けた。
「かわいそうに……」
「同情すんのやめてくれる? 余計ムカつく。ま~あ、最近由宇くんと会った玲依くんにはこの気持ちはわからないだろうけどね!」
「ほんとに煽るのが得意だなお前は……!」
七星はありがとう、と鼻を鳴らした。
ピリピリとした沈黙があったが、七星は息をつきからかうように笑った。
「翔太くんなら持ってると思うけどね。それはもう、たーくさん」
玲依はその言葉を頭に巡らせ、拳をぐっと握りソファから立ち上がった。
「やっぱ名越くんだな。よし、頼みに行こう。土下座ぐらいなら安い」
「プライドないの?」
七星の実験室を出た2人はざわつく大学内を並んで歩きながら翔太を探していた。ざわついている原因は学内でもトップレベルの顔が並んで歩いてることだと本人たちは気づいていない。
「なんでお前もついてきてるんだよ」
「玲依くんが翔太くんに惨敗して落ち込むところを笑ってやろうと思って。もし交渉がうまくいったときは俺も写真見たいし……まあそう簡単にいくとは思ってないけどね」
「悪趣味……」
にっこりと笑う七星を睨むが、七星はそんなことで動じない。
「そういやどうして俺のところに頼みにきたの? 翔太くんの方が確実ってバカでもわかるでしょ」
さりげなくバカだと言われていることに玲依は気づかず爽やかに笑った。
「ラスボスは最後だろ」
「俺をザコ敵扱いしないでくれます~~? ほんっとそういうとこムカつくんだよ!」
意図せず煽ってくる綺麗な王子様の顔をつねった。
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