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【番外】由宇の写真が見たい!②
「名越くん見つけた!」
「こんにちは、翔太くん」
大きい声で呼びかける玲依とその後ろから顔を出した七星を見て、食堂でノートパソコンを叩いていた翔太は心底嫌そうな表情を浮かべた。
「由宇の場所なら教えないぞ」
「え~由宇くんに会いたかったなあ。あとで探そ」
……ということは由宇はここにいないんだ、と安心した。由宇に聞かれたらまずいことを言おうとしてるんだから。
玲依は気合を入れてじっと翔太の切れ長の目を見つめた。
「今日は名越くんに頼みがあってきたんだ」
「断る」
「えっ」
翔太は間髪ない返事をし、再びノートパソコンに向かう。七星は予想通りの結果に腹を抱えた。ぽかんと開けた口から気合いが出そうになったが、玲依はもう一度引き結ぶ。
「言う前に断らないで!? 内容ぐらい聞けよ!」
「どうせろくでもないことだろ」
「うん、ろくでもないことだよ」
またも一蹴され、キーボードを軽快に叩く音が聞こえる。こっちに加勢する気もさらさらなく、ただ茶化しているだけの七星にも腹が立ち、むむむ……と綺麗な顔をしかめるが、それでも諦めない。
「ろくでもなくない! 俺にとっては大事なことだ!」
スゥ……と深く息を吸い思いっきり頭を下げた。
「由宇の小さいころの写真を見せてください」
「プライドはないのか?」
「ははは! めっちゃウケる! 俺とおんなじこと言ってる!」
翔太の冷ややかな声と七星の笑い声が響くが、それでも諦めまいと玲依は顔をあげた。
「そうだよ、音石にも同じこと言われたけど同じ言葉で返す! 由宇のためならプライドなんか捨てる! どれだけバカにされても諦めない!」
再び大きく息を吸い、ぎゅっと拳を握りしめてはっきり自分の想いを伝える。
「俺は幼稚園から小中高全ての由宇の写真が見たい、由宇の成長の過程、人生の歩みを見たい、おはようからおやすみまで全部の由宇を見たい!」
「……」
「わぁ、気持ち悪……」
「え、そこまでドン引く……?」
空気は一瞬でしんと静まり、冷えきった。玲依の緊迫した意思の強さに手を止めていた翔太は一切感情のない目で玲依を見つめた。七星は眉を寄せながら顔を覆った。
「酷すぎる。由宇にもう近づくな」
「そーだそーだ。由宇くんは俺のだから近づかないで」
翔太は「お前もだぞ」と言いながら七星を睨む。
「名越くんも音石も同じこと思ってるくせに! 俺だけ理不尽!」
「全部バカ正直に言うからこうなるんだよ」
カチンときた玲依は抗議するも、2人には受け流されるだけだった。
「お願い、お願い! 名越くんしか頼める人いないんだよ、俺は由宇の写真が見たい~~!!」
「みっともな……翔太くん相手にそこまでできるのあんただけだよ……図太すぎて尊敬する」
翔太にすがりついても鬱陶しく払いのけられた。それでもめげない玲依はアプローチを変える。
「じゃあ取り引きしよう」
改まった声と表情に翔太と七星は動きを止め、様子を伺った。
玲依は慎重に口を開いた。
「名越くんのいちばん好きな料理を俺が作るから、由宇の写真を見せてほしい。遠足もプールも運動会もクリスマス会も修学旅行も幼稚園小中高のアルバムも名越くんのカメラロールも全部!」
「取り引き、全く見合ってない……欲深すぎ……」
堂々と全てを言い切った玲依にまたもドン引きした七星が冷静に常識的なツッコミを入れるほどの内容だった。
「断る」
翔太の冷めた声に七星がうんうんとうなずく。
「一品だけじゃなくてフルコースにするから! 前菜はカルパッチョにして……あっ、メインの肉はやっぱ牛フィレ肉? 美味しいよね~牛フィレ」
「そういう問題じゃない」
「えっ 違うの? 鴨とかにする?」
なんだこの噛み合わない会話……と、七星はつまらなさそうに心の中でツッコミをいれた。
肉料理の話が終わると次は魚料理の話になり、終わらないフルコースのメニュー決めに翔太も苛立ちため息をつく。
「じゃあ俺からも提案だ。由宇のことを諦めるなら餞別に1枚だけ見せてやる」
「なっ……!」
「そうきたかぁ」
埒が明かないと別条件を切り出した翔太は鋭い目つきで玲依を睨んだ。
「どの頃の写真がいいか選んでもいいぞ」
「いっ、いじわる……! 諦めるわけないだろ!」
幼なじみムーブを見せつけてくる翔太に玲依は肩を震わせた。
おもしろくなってきた展開に七星はにこにこと笑いながら手を叩く。
「わあ、翔太くん太っ腹ぁ! 玲依くん、よかったねぇ。由宇くんの写真見れるよ。これで今日はぐっすり眠れるね」
「音石は諦める前提で話をするな! 名越くんのいじわる!卑怯!ばか!ムッツリ!」
「なんとでも言え」
素っ気なく言い放ち、翔太は再びノートパソコンを叩きはじめる。
「くそ……でも俺は絶対諦めたくない……!」
「も~~無理だって。取りつく島なし」
「何言っても無駄だ。さっさと諦めろ。由宇のことも、写真も」
冷たい言葉が降りそそぐが、「由宇も写真も諦めない方法……」とつぶやきながらしゃがみこんだ。
その玲依の肩を七星がつんつんとつついていると、いきなり勢いよく顔をあげ、立ち上がった。突然のことに七星は「わっ」と小さく声をあげる。
「そっか、由宇の恋人になれば直接頼める……!」
翔太と七星は「は?」と口を揃えた。
「今は恋人じゃないから嫌われそうで言えないけど恋人になってからお願いしたらきっと写真見せてくれるよね……! 由宇の部屋で仲良く肩を並べながらアルバムをめくる……最高……!」
いっきに表情を明るくした玲依は両手をぎゅっと握りしめた。
「この流れでなんでそうなるの?」
「やっぱり俺の目標は変わらない。絶対由宇の恋人になる! そうと決まれば今日も全力でアピールしないと! それじゃ!」
せわしなく駆けていく玲依を呆然と見送った。
「……逆効果だったんじゃない?」
「……」
「あんたの鉄壁も玲依くんには通じないねぇ。翔太くんが崩されるの超愉快。玲依くんはいいもの見せてくれるなぁ。ふふ、俺も由宇くん探しにいこ~っと」
軽い足取りで翔太に背を向け「じゃあね」と手を振って玲依の後を追いかけていった。
「玲依くん、抜けがけしないでよ! 俺が先に由宇くん見つけるからね!」
そんな声を聞きながら翔太は深く息をついた。
「あいつら面倒すぎる……」
騒がしい2人がバタバタと出ていき、食堂にはいつも通りの時間が流れはじめた。
「お待たせ翔太。先生の話長くってさ……ってなんか疲れてないか?」
先生にレポートを提出しに行っていた由宇は戻ってくるなり翔太の表情が固くなっていることに気づき、顔を覗きこんだ。
「……由宇があの場にいなくてよかったよ」
「??」
数日後、結局口を滑らせた玲依は由宇に全て話してしまい、予想通りドン引きされるのだった。
【由宇の写真が見たい! 完】
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