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【番外】髙月玲依アンチの吉田くんの話

 オレは数少ない髙月アンチの吉田!  同じ学科の髙月は推薦入学だけあって料理もケーキ作りも上手い、しかもイケメンで女子にめちゃくちゃモテる。  それなのに気さくで自分を棚にあげないし喋るのもうまいから男友達も多いというフルスペックの男……! それ故にジェラシーを感じているわけだ。ジェラシーを感じる方が馬鹿げてると思うが、ムカつくもんはムカつく!  そんな髙月が叶わない恋をしているらしいと風の噂で聞いた。あれだけのイケメンに振り向かない相手なんて、どれほど高嶺の花なんだろうか……でもこれはまたとない機会。髙月が振られて悲しんでいるところを嘲笑ってやろうとしていたんだが…… 「由宇!」  大学内を歩いていると弾んだ声が聞こえた。  この声は髙月……! しかもめちゃくちゃ嬉しそうな声、ということはそこに例の叶わない恋の相手が……気になる……!  オレは建物の影に隠れながら、駆けていく髙月を目で追った。ゆうって名前の女の子か……いったいどれほどの美人で…… 「玲依……なんだよ」  って男ォ!?  髙月が話しかけたのは紛れもなく男だった。髙月ほどのイケメンはそうそういないが、あの男もけっこうかわいい顔をしている。すごく顔をしかめてるけど…… 「由宇に食べてほしいものがあって……」  いや、そこそこかわいい顔だけどさすがに男は恋の相手じゃないな。髙月、いつもの爽やかな笑顔じゃなくてすげぇ幸せそうな特別な笑顔に見えるけど、男が相手ではないだろ。  あいつはただの別学部の友達だな……勘違いして悪かったな、名も知らぬ黒髪の男。 「今日実習でカヌレ作ったんだ! 出来立てです!」  髙月は自信満々に持っていた袋からさっきの実習で作ったカヌレを取り出した。 「そんなものまで作れるのか……? そういやカヌレってあんまり食べたことないかも」 「バッチリ美味しくできたよ! 自信作! 由宇を思い浮かべながら作ったんだ……由宇に食べてほしいなあ……?」  あ、相手あいつだ。  察したわ。明らかに恋してる顔してるわ。上目遣いで頬染めてるし甘え声になってるし……あんな髙月初めて見たな……ガチか…… 「思い浮かべるなよ」  いや、相手めっちゃ引いてんじゃん。叶わない恋ってこれのことだったんだな…… 「まあ食べるけど……」  黒髪の男は引きながらもカヌレを受け取り、口に運んだ。  相手男だし、めっちゃ引かれてるし、あの髙月がアピールしても男だったらなびかないよな……女だったらイチコロだろうに……振られるところを笑ってやろうと思ってたのに急に不憫に思えてき…… 「美味い!」 「!」  喜ぶ黒髪の男の声が響いた。同時に髙月の顔も赤みを増していく。 「外側カリカリなのに中もちもちだし、甘い……! へえ、カヌレって美味いんだな。今度店で見かけたら買ってみようかな」 「はわ……」  さっきまでめんどくさそうに相手していたのにカヌレを食べて、にこにこと笑顔になっていた。純粋に喜んで食べるその姿を見て、髙月は小刻みに震えていた。 「ありがとな、玲依」 「由宇……!」  ひとつ食べ終えた黒髪の男は頭を少し横に傾け、微笑んだ。はじめて見る奴なのに、本当に喜んでいることが伝わってくる笑顔……髙月につられてオレまできゅんとしてしまった。  それがトドメだったのか、髙月は真っ赤な顔であわあわと心臓をおさえた。 「お、お礼……! か、かわ……やば……」 「はっ……も、貰ったんだからそりゃお礼ぐらい言うわ! じゃあな、ごちそうさま!」  ツンデレの猫なのか……?  黒髪の男は早口で喋り、顔を真っ赤にしながら走り去っていった。  その場に残った髙月はひとりうずくまり、深くため息をついた。泣いてんじゃないのかと思うぐらい感極まっていた。 「ううっ……めちゃくちゃかわいい……無理好き……なにあの顔……国宝……? しかもごちそうさまって……もうなに、かわい、好き…… あっ、これ全部あげようと思ったのに渡しそびれた……」  ……なんかすごい一場面を見てしまったような気がする。でも、喜んでもらえてよかったな……! 「髙月」 「吉田くん、どうしたの?」 「これ……」 「近くのカフェの無料券?」  首をかしげる髙月に、オレは2枚のカフェ無料券を手渡した。 「知り合いに貰ったんだけど使う予定ないからさ。好きな人と行ってこいよ」  髙月の表情がぱっと明るくなる。 「え……いいの!? というかなんで俺にくれるの!?」 「ああ、まあ……罪悪感かな、いろいろ思ってて悪かった」 「??」 「いや、こっちの話だ。気にしないでいいから」 「あ、ありがとう! じゃあ大切に使わせてもらうよ」  髙月は普段よりも少し弾んだ声で笑った。こちらに手を振り、駆けていく姿を見送った。  きっと誘いにいったんだろう。最初は叶わない恋って話に納得したけど……あの黒髪の男の照れた顔を見ると、わりと脈はあるんじゃないかな。必死にアピールして、話せただけで嬉しさを噛みしめている髙月を見ると、応援してやりたくなってしまう。  髙月がそんなやつだと思ってなかったんだ……なんでもできて、人生勝ち組なんだと思ってた。アンチしてて悪かったな。  頑張れよ、髙月……!  ーーこうしてまたひとり、髙月玲依の恋路を応援する人が増えたのだった。 【髙月玲依アンチの吉田くんの話 完】

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