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新たな理解者

 お客さんを案内し、そのまま流れで翔太のレジを手伝っていると、カランコロンと軽快な音を立ててドアが開いた。反射的に視線を移す。 「尾瀬くーん、やってる?」 「居酒屋かここは」  玲依の双子の妹・芽依は、のれんをくぐるポーズをしながらこっちへ向かってくる。明るい笑顔が玲依とそっくりだ。芽依とは同じ学部なので講義も被ることが多く、玲依と知り合ったことがキッカケでよく話すようになった。玲依と俺にうまくいってほしいらしく、顔を合わせるたびに玲依の近況報告をされるし、俺のことも玲依に筒抜けになっている。  またお騒がせなメンツが増えてしまった。 「イケメンだらけのカフェって噂になってるよ。玲依たちも一緒に働いてるんだって? モテ男は罪だねえ!」 「お客さんはみんな俺以外目当てだって……」 「うーん、そこは謙遜しなくていいと思うけどなあ。尾瀬くんはじゅうぶんかわいい顔してるよ、ね、名越くん」  翔太に話を振るのに合わせて同じように隣に視線を向ける。翔太は無言で芽依を鋭く睨みつけたが、芽依は軽く笑い飛ばした。 「あはは、照れ隠し照れ隠し」  照れてる様には見えないけど……?  険しい顔の翔太をじろじろ見ていると、目が合う。すると、翔太の手が伸びてきて、思いっきり俺の頭をぐちゃぐちゃと撫でた。 「いきなりなんだよ!?」 「なんでもない」 「??」  戸惑う俺の顔を見て翔太はクスッと笑い、レジ横のお菓子を綺麗に並べ始めた。小動物とでも思われてるのか……?  芽依は腕を組んで「うむうむ……複雑だね……」と何かを察したように頷いていた。 「芽依!」  強めの声とともにドアが開き、見覚えのない女の子が現れた。すっきりとした紺色のワンピース、ストレートの長い黒髪に赤のインナーカラー、華やかなメイクがよく似合う、品のある女の子だ。呼ばれた芽依は振り返った。 「待てって言ったのに先に先に行かないの!」 「いやーごめんごめん。楽しみでつい!」 「変なやつに声かけられたらどーすんのっていつも言ってるでしょう!? こんなにかわいい顔してんだから……」  黒髪の子はカツカツとヒールを鳴らして芽依に近寄り、真剣な表情で芽依の頬を包み込んでいる。一方の芽依は慣れているのか、いつもの軽い笑顔を浮かべていた。隣の翔太とともに呆気にとられていると、黒髪の子はぐるんと首をこちらに向けた。 「わ、噂どおりイケメン! タイプが違っていいわね!」 「えっ」  インパクトが強くて固まってしまう。頬から手を離された芽依はにこにことしながら、俺と翔太を順に紹介しはじめた。 「尾瀬くんと名越くんだよ。同じ学部なんだ。こっちは友達の花乃(かの)。服飾学部だよ」  なるほど。服飾学部だからメイクも髪もバッチリ決まっているのか。女子のことはよくわからないけど、自分の似合う服を理解している感じがオシャレだ。花乃と呼ばれた女の子はぺこりと一礼した。 「初めまして。芽依が言った通り、服飾学部二年の白宮花乃(しろみやかの)です。うちの芽依がいつもお世話になってます」  礼儀正しい挨拶に、どうも、と翔太と同時に頭を下げる。 「親みたいな挨拶だね」 「こういうのは第一印象が大事だから。いくらイケメンだとしても、芽依に近づかないように牽制しないと」 「大丈夫だよ。尾瀬くんは玲依が恋してる相手で、名越くんは尾瀬くんの幼なじみ。二人とも私とはただの友達」 「ああ、なるほど、髙月くんの……」  なんだその雑な紹介の仕方は……と心の中で思っていると、白宮はじっとこっちを見ながら、一歩ずつ距離を詰めてくる。少しだけ翔太が俺の前に出た。 「芽依には聞いていたけど、あなたが髙月くんの……」 「え、なに、別に俺は玲依のことはなんとも……!」  そうか、玲依ってモテるんだよな!? 今まで意識してなかったけど、俺が相手って知ったら玲依のことが好きな女子から嫉妬とかいろいろ向けられてもおかしくない!  俺は無実だから!の意味を込めてぶんぶんと首を振っていると、レジカウンターの目の前で止まった白宮は、鋭く俺を見ながら難しい顔で考え込むように腕を組んだ。 「ずっと相手が気になっていたの。イケメンの一生懸命な恋、いいわね……!」 「へ」  てっきり俺に敵意が向くのかと思った。意外な言葉に抜けた声を出すと、芽依が付け足した。 「花乃は極度のメンクイなんだ」 「メンクイ……!?」 「私の顔に惹かれたらしくて、入学したばっかのときにナンパされちゃってさあ~~それで花乃が作った服を着て、服飾学部のショーでモデルしてるんだ。すごいでしょ」  芽依は満更でもなさそうに、むしろ誇らしそうに胸を張った。 「芽依は国宝級にかわいいからね。まるで薔薇の花のよう……なんでも着こなしてくれて、作りがいがあるの」 「それほどでもあるけどねえ」 「じゃあ玲依もその……モデルとかやってるのか?」  芽依の顔が好き、ということは玲依のことも相当気に入っているということだろう。どうしようもなくじれったくなって、つい聞いてしまった。  白宮はにこりと笑って、芽依を抱きしめた。 「髙月くんも十分すぎるほどの美形だし、芽依と並ぶと形容しがたいほどの美しさになるわね。いずれは双子揃ってショーに出てほしいけど……やっぱり私は芽依がいちばん! だから、安心して」  見透かされたようにウインクをされて、ギク、と固まる。芽依もニヤリと笑った。 「……っ! そういうことを聞いたんじゃなく……!」 「それヤキモチ……」 「ちがう!!」 「尾瀬くんはツンデレと見た」 「ちーがーう!! もういいから、席にどうぞ!」  ほぼ家族のような存在の翔太にこんなことを聞かれるのも恥ずかしい。とりあえずここから離れよう。  翔太に手を振り、レジを離れ、二人を空いたテーブルまで案内した。

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