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【番外】猫耳パニック!?②
「また変なことしてるんじゃないだろうな」
「チッ、邪魔が入った……」
「なんで髙月は倒れてるんだ」
「玲依くんはガチの変態だからね。耐えられないんだよ」
「は?」
助けがきた。由宇には翔太が希望の光に見えた。
「よかったぁ……翔太、ありがとにゃ!」
「にゃ?」
謎の語尾に、翔太は木の後ろから顔を覗かせる由宇に視線を合わせる。
「!?」
伏せた猫耳とゆらゆら動くしっぽ。可愛らしいその姿に目を見開いた翔太は七星を思いきり放り投げた。七星は「ぎゃ」と鈍い音とともに植え込みに落下した。
「由宇、その耳としっぽ……」
「えっと……にゃにゃせが作った変な薬が口に入って、こうなったにゃ……」
先ほどまで襲われそうになっていた由宇は木の後ろから動かない。怯える猫みたいに警戒して、翔太にも近寄ろうとしなかった。薬の効果によって、行動も猫っぽくなっているらしい。
それをなんとなく察した翔太は、その場でゆっくり手を広げた。
「おいで、由宇。大丈夫だ」
「にゃ……」
いつものように優しく微笑む翔太。その姿にじんわりと安心が心に広がっていく。由宇はちょこちょこと近づき、翔太の腕の中に収まった。
「怖かったな」
「うん……」
優しく抱きしめ、頭を撫でてやると猫耳も嬉しそうにぴこぴこと動いた。やけに動く耳が気になり、翔太は指先で少しだけ触れてみた。由宇は一瞬体を震わせた。
「わっ」
「あ、ごめん」
「いや、くすぐったかっただけにゃ」
「……」
猫耳としっぽを動かしながら、腕の中で恥ずかしそうに笑う由宇。いつもより何倍も増した破壊力に、翔太は息をのんだ。
「俺を投げ飛ばしておいて、いい雰囲気になってんじゃねーよ」
「そーだそーだ! 名越くんだけずるい!」
木と草塗れになった七星と、地面を転がりまわって泥だらけの玲依が声を張り上げる。翔太は由宇を背に庇った。
「俺だって優しくします、音石からも守るから! だから俺のところにおいで!」
「おめーも何するかわかんにゃいから嫌!」
「ああ……かわいい……」
由宇は威嚇してそっぽを向く。その姿も玲依の心臓を貫き、また地面に膝をついた。さっきから一向に立てていない。
「あのねぇ、俺ばっか悪者扱いしてるけど玲依くんも翔太くんもおんなじだから。なんともない顔しといて、興奮してんのバレバレだよ、翔太くん? ムッツリだもんね?」
七星は挑戦的な黒い笑みを見せる。ただでさえ由宇の可愛さに心は乱れているはず。鉄壁ガードを崩すなら今だと企んだが、翔太は全く動じなかった。
「由宇、今すぐ帰るぞ。ここは危ない」
「名越くんがいちばん危険では!?」
「おまわりさ~~ん、ここで~~す」
「お前らといる方が何万倍も危険だ」
「連れ帰って由宇をどうする気だよ!」
「へえ、翔太くんは二人きりになっても我慢できるんだ? んなわけないでしょ、二十歳の男が三大欲求に抗えるとでも?」
三人は互いに譲らず、口論を繰り広げる。決着はつきそうにない。由宇はだんだん眠くなり、話を聞くのも面倒になってきた。翔太のそばから離れ、近くのベンチに横たわった。
「ん、由宇!?」
「あっあそこ」
「寝てる」
由宇は太陽を浴びて気持ちよさそうにうとうとしていた。三人は近づいて覗き込む。
「由宇、眠いのか?」と翔太が聞く。
「日差しがあったかい……気持ちいいにゃ……」
「かわっ……え、まじかわ、しんど……」
「猫だからか?」
「たぶんそうだね。だんだんと行動にも猫っぽさが現れてる。薬が馴染んできたみたいだ」
怪しく笑って頷く七星の頬を、翔太がぎゅっとつねった。
「笑ってんじゃないぞ……いつ戻るんだ」
「いったい! ……すこーし口に入っただけみたいだし、一時間もすれば戻ると思うよ。せっかくだし、それまで楽しもうよ。あの玲依くんを見て」
玲依はしゃがんで、ベンチに横になっている由宇を覗き込んで手を合わせている。
「ね、由宇。ちょっとだけ、ちょっとだけ耳としっぽ触らせて……!」
「ダメにゃ。絶対変な触り方するもん」
「ダメにゃって……かわ、かわ……語彙力溶ける……もう俺が溶けそう……」
「ほら、俺がドン引くほど楽しんでるよ」
「髙月ぃ……!」
翔太は玲依のコートの首もとを掴み、ずるずると引きずって由宇と距離を取る。
「由宇を変な目で見るな。シメるぞ」
「締まってる、首締まってます! だってかわいすぎるから!」
その内に……と七星は由宇との距離を詰める。
「由宇くん、俺が膝枕してあげよっか♡」
「抜け駆け!」
矢のように飛んでくる玲依と翔太の怒りの視線をガン無視して、七星は由宇に問いかける。由宇は目を細めて七星を睨んだ。
「にゃにゃせは嫌。翔太がいい」
「はぁ!?」
「なんで名越くん!?」
「わかった」
秒で納得した翔太はすぐに由宇のもとへ行く。由宇は体を起こして場所を開け「ここに座れ」と言わんばかりにベンチをべしべしと叩いた。そこに翔太が座る。由宇は満足げに翔太の筋肉質な太ももに頭を乗せた。
「なにこの屈辱……! ムカつく……!」
「日頃の行いだな」
「ぐうっ……ドヤ顔すんなっ!!」
いつも由宇にちょっかいを出しているのが完全に裏目に出た。今の由宇は好き嫌いがハッキリした甘えたモードの猫ちゃんになっている。そんな猫が甘えたいのは落ち着いていて、そばにいて安心できる人。
「由宇、俺は、俺は?」
「玲依は助けてくれにゃかったから嫌。あとうるさい」
「ごめんなさい!!とってもかわいすぎて動けませんでした!! てかツンツンしてる由宇猫かわいすぎか!?」
いつもより数倍も増してうるさくネジの外れた玲依は土下座しながら頬を染めている。いかにも変態くさかった。
「翔太は静かだし、落ち着くにゃ。もう疲れたから寝る……」
「ああ。あいつらが近寄ってきたら追い払うから、安心しろ」
「にゃあ……」
翔太の膝に頭を乗せ、由宇は気分良く目を閉じた。翔太はその頭をゆっくり撫でてやる。幸せな雰囲気が二人の間に流れる。
玲依は静かに手を合わせた。
「名越くん羨ましすぎて嫉妬で引き裂かれそうだけど由宇がかわいいからなんかもう全てを許せる……由宇猫ちゃんだけをずっと眺めていたい……」
玲依の視界から翔太の姿がログアウトした。今玲依には、ぽかぽかの日差しを浴びながら寝る由宇猫しか見えていない。
一方、そんな玲依の隣で七星はわなわなと肩を震わせていた。
「……っ、こんな展開、俺が黙って見てるわけないでしょ……!?」
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