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【番外】猫耳パニック!?③
七星が白衣のポケットから取り出したのは、透明な袋。
「さっきからいろいろ出してるけど、音石の白衣は四次元ポケットなの?」
「ふっふっふ。これで由宇くんは俺のもの……♡」
その袋には、"またたびの木"と書かれていた。切り揃えられた枝が数本入っていて、チャックで密閉されている。ピンときた玲依は声を縮めて、七星の耳もとに顔を寄せた。
「それって、猫が酔っ払ったみたいにメロメロになるってやつ!? 実際見たことないけど!」
「リリィには好評だよ。これだけ猫っぽくなってたら、効くんじゃないかと思ってね♡ 玲依くんは俺を止めないんだ?」
「正直、乱れる由宇猫が見たい」
「マジで気持ち悪っ……正直すぎでしょ。ガチトーンなのがさらにきもい。ま、とにかくモノは試しだ」
袋のチャックを開けて一本取り出し、由宇に向けて揺らす。すると、由宇は途端に目を覚まして起き上がった。
「由宇?」
「……にゃんか、匂いが……?」
「起きた、かわいい!! きゅんです!!」
「お、反応あった……ほら由宇くん、おいで♡」
猫耳をピンと立たせて、興味津々にしっぽが揺れている。ふらふらとは立ち上がった由宇はまたたびに引き寄せられるように七星に抱きついた。
「にゃにゃせ……いい匂いする……この木かにゃ?」
「っ……♡」
好きな人が、自分に抱きつき匂いを嗅いで、とろんと瞳を潤ませている。
七星の全身に熱が駆け巡った。発情した獣のように呼吸を昂らせ、ゆっくりと由宇に顔を近づける。
「由宇くん……すき、だいすき、ちゅーしよ、そしたらいっぱい……」
「いっぱい、これくれるにゃあ?」
「うん、いくらでも……可愛がってあげる……♡♡」
七星の唇が、由宇に触れる……
「こらーーーーっ!!」
その直前で、翔太が由宇を、玲依が七星を同時に引き剥がした。
「んにゃっ」
「なに急に盛ってんの!?」
「音石ぃ……」
「邪魔しないでよ! 由宇くんはしっぽ振って喜んでたよ!?」
玲依に羽交い締めされた七星はジタバタと逃げ出そうとしている。手に持つまたたびの枝はそれによって風に揺られて、さらに匂いを放つ。翔太に抱きとめられながら、由宇は七星の持つまたたびの枝を凝視している。
「あれ欲しいにゃ、翔太ぁ」
「……」
潤んだ上目遣いの瞳、ストレートなおねだり。抗えるわけがなかった。
翔太は由宇がどこかに行かないよう、小脇に抱えて七星に迫る。すると七星は、玲依を振り切って翔太からすばやく距離を取った。
「音石、それを渡せ」
「渡すわけないでしょ。あんたばっか得するなんて許さない」
「それがないと由宇が落ち着かないだろ」
「そんなん建前だね。これ使って由宇くんをどうする気なのかなぁ」
バチバチと火花が飛び散る言い争いをよそに、玲依はしゃがみ、小脇に抱えられた由宇をじっと見つめていた。
「……俺も由宇の頭、撫でたいな……」
「んん……ちょっとだけにゃ」
「うあっ、かわっ……ふぅ…………お、お邪魔します(?)」
由宇猫はやっぱり撫でられるのが好きらしい。見え隠れするデレに胸を貫かれながら、玲依は由宇の頭を撫でる。由宇は気持ちよさそうに目を閉じて、玲依から伝わる熱に身を委ねた。
「ひええ……かわよ……」
「手ぇあったかいにゃ……」
「ううっ、かわいすぎる、どうしよう、処理できない、涙腺処理落ちした……っ」
玲依は溢れる涙を袖で拭った。
「もっとかわいがってもいいにゃ」
「ヴァ…………ッ」
この言葉と由宇の満足そうな表情が決め手となり、玲依は本日何度目かわからない五体投地をキメた。
言い争いを続けていた翔太と七星も玲依に視線を集め、
「髙月……」
「自滅した……」
と、大いに顔をしかめながら声を揃えた。
玲依を一発でノックアウトさせた、凶悪と言っていいほどの由宇のかわいさ。翔太は恐ろしくなってきた。ぴこぴこと動く耳としっぽや、ちょっとした仕草でさえ、いつもの由宇とはまた違ったかわいさを引き出している。
「……由宇がさらに猫っぽくなってないか」
「猫ちゃんとの相性がいいのかも? 由宇くんって元々猫っぽいし。ねえ由宇くん、このまたたびもあげるし、撫で撫でもしてあげるから、かわい~くおねだりしてみて♡」
七星は手に持ったまたたびを振って、企みを含んだ笑顔を浮かべて誘惑した。玲依もその言葉を聞いてギリギリの状態で身体を起こした。
またたびをぽうっと見つめた由宇は、こくりと頷いてしまった。翔太に抱えられながら、両手をグーにして顔の前に近づけて猫のポーズをとり、首をかしげた。
「んにゃ……おれにもっとそれちょうだいにゃ……♡ それに、いっぱいなでて、かわいがってにゃあ……♡」
かわいい、無理、つらい、しんどい、かわいい!
雷のような衝撃が走り、一瞬でいろんな感情が三人の中に巻き起こる。
地面を這って息も絶え絶えになった玲依が、震えた手を挙げた。
「あの……かわいすぎて本気で心臓やばいから、もうやめない?」
翔太と七星は、一周まわって冷静になりつつあった。冷たい目で玲依を見下ろしながら、頷く。
「賛成」
「うん、由宇くん恐るべし……」
予想を遥かに超える由宇猫のかわいさ。まさかここまでの破壊力を持つ脅威になるとは誰も思っていなかった。戸惑いと恐ろしさに襲われた三人は、手を組むことにした。
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